鬼行文
□西瓜と僕と一くん。
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キンッガキンッ
木刀と木刀がぶつかり合う音が稽古場に響いた。二人の隊士が実践訓練中だったのだ。その様子を観察しているのは斎藤一。左利きだが人に教える事が出来る。その姿は熱心で凛としていた。この暑い道場は熱気がこもっていた。
「やぁああー!!!」
「ふんっ!!!!」
「二人とも刀に力を入れすぎだ。それでは手首を痛めるぞ」
「「はいっ!!!」」
ガキィィン!!
決着が付いた。
斎藤は終わった後の彼らに助言してから自室に戻った。
手拭いで汗を拭き髪をほどいた。少しだけ水滴が髪についているが今は早くゆっくりしたかった
「───失礼します」
「……千鶴?」
襖を開けたのは雪村 千鶴だった。
「斎藤さん、暑い稽古場で疲れましたよね?冷茶と西瓜を持ってきたんです!」
「おぉ…」
(心なしか斎藤さん、目が輝いてる…)
千鶴は斎藤の座る畳の隣に“二人分”置いた。不思議そうに斎藤はその行動を見た。すると襖の奥から、
「お疲れ様、一くん。」
「総司か…」
「一緒に食べようよ」
「それじゃあ私、原田さん達と巡察行ってきます」
頭を下げて千鶴は部屋から出ていった。隣を見るともう西瓜にかぶりついていた。斎藤もみずみずしい西瓜を食べることにした。甘くて冷たくて夏にはぴったりの甘味だ。
「そういえば一くんさぁ」
「何だ」
「何で髪ほどいてるの?」
「!」
斎藤は西瓜に夢中で気づかなかった、という表情をした。沖田はにこにこしながら斎藤の顔を見た。おしぼりで手を拭きながら斎藤の髪を指ですいた。するりと指から流れる髪を見つつ沖田は、
「平助と比べると髪の毛やわらかいよね」
「そうか」
沖田を軽く受け流しながら西瓜にを食べ続けた。
斎藤に相手にされず少しだけ膨れっ面の沖田は斎藤の髪で遊びはじめた。
「一くん今退屈だよね?」
「別にあんたの為に時間を割く暇は無い」
「…………………」
今の斎藤の一言で沖田は思い切り首筋にかぶりついた。
斎藤は西瓜を食べ終わり冷茶をすすっていたが今の衝撃で頭から冷茶をかぶることになった。
「何をっ、する…」
「えー何だろうね?」
「やめろ、総司……」
「今なら二人きりだけど、それでもやめる?」
確かに沖田の言う通りだ。
原田と永倉は千鶴を連れて巡察中だし土方と山南は近藤と会議、山崎は島田と仕事……。今は完全にこの二人だけ。
「しかし、昼間からこんな淫らな……」
「夜は夜で断るくせに」
ほら、と斎藤に催促した
自分で脱げという事だろうか。
「自分で脱げないなら、僕が脱げしてあげるけど?」
「い、いい…それくらい出来る」
「あれ?」
上半身だけ裸になった斎藤に沖田は不思議そうな顔をした。
「何でココ、こんなに赤いんだろぉ?」
「っ!!!!」
「あ、そっか。一くん感じてるんだよね」
「う、うるさい……」
「こうしたらどうなるかな?」
指でぴんっと弾くと斎藤は高い声を出す。沖田は怪しげに笑うと無理矢理押し倒した。腹の上を舌で舐め、赤い跡をつけた。沖田から斎藤への愛の印を深く深く───。
「一くんさぁ。顔隠すのいい加減やめて」
「…しかし、」
「しかしとかじゃなくて。“好きな人”の顔が見えないのは嫌だなぁ、僕。」
「わ、わかった……」
腕を隠すのをやめて、二人の目が合う。
斎藤は息をのんだ。沖田の瞳に反射して自分の姿が映し出されて二人が密着しているという事を改めて思い知らされた。
それでいいの、と沖田はまた口づけをした。
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