彼と彼女の1ヶ月

□T
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涼しい風が吹き始め、夏に終わりを告げたある地方。
“仕事”で南方に滞在している男の元に一通の手紙が届いた。
現在彼が、偽りなりきっている人物宛に送られてきたそれには、およそ貴族には似つかわしくない内容が綴られていた。
長椅子に浅く腰掛け、だらしなく足を投げ出して座っている彼の名はレティシア・ファロット。
猫のようにつりあがった飴色の眼と、癖のある金茶の髪が特徴的な男だ。
その眼をきらめかせ、彼は唇の端を持ち上げた。

「デルフィニア、ねぇ……?」

――デルフィニア。大陸の中央に位置する大華三国のひとつだ。豊かな国で、年中賑やかな所だ。
首都は、コーラル。
現在、コーラルには彼の同業者がいる。
が、残念ながら指令書に記されているのはコーラルよりも西の都市名であった。

一通り内容を覚えると、レティシアは気怠げに立ち上がった。
そして部屋の隅に置いてある蝋燭に手紙を近付け、燃やす。
灰になっていく紙切れを興味無さげに見下ろして青年は意味もなく笑った。
麝香猫のように怪しく。否、蛇のように不気味に。
まだ見ぬ暗殺対象に、死神(ファロット)は笑いかけた。



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