桜ノ少女
□第15話
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……自分を呼ぶ、声が聞こえる。
―――悠南、悠南…。誕生日、おめでとう。
―――麗夜、悠南と並べ。写真を撮ってやろう。
私は、この声を知っている。
―――悠南、兄様と外で遊ぼう。
―――いってらっしゃい、気をつけてね。
―――あまり遠くに行くんじゃないぞ。
ふわふわと、三つの声が頭に直接響いてくる。
…だれ。
―――悠南は、あれが…。あの異能が…。
―――いい、二人とも。春雨にだけは捕まってはだめよ。…もし捕まってしまったら、堂々としておくの。私達は夜兎なのよ。
あなた達は、だれ。
―――悠南を連れて逃げろ!俺が食い止める!
―――麗夜…、麗夜は!?
―――先に仲間と逃がした!あとはお前たちだけだ!
………この、場面は。………この、光景は。
―――ごめんね。もう……もう、私も限界なの。だから、ここにいて……。ね?いい子よね、悠南……。
―――いたぞ!こっちだ!!
―――どうか、生き延びて………。
私はこれを、知っている。
―――ごめんね………。
待って。
まだ、知りたいことがある。
行かないで、待って。
聞きたいことがあるの。
伸ばした手は紅葉のように小さくて、息を呑む。
ゆらり、と揺れた視界に反射的に目を閉じた。
途端に襲ってくる頭痛と寒気。
なんとか瞼を上げ、かすむ目で母親の背を追う。
―――お母、様…………………
視界が暗転したその時、幼い自分の声が聞こえた気がした。
✱✱✱
頬を、温かいものが包み込む。
少女の目尻をそっと撫で、指を顎にすべらせる。
何者かが傍にいて、自らの体に触れているというのに、悠南は未だ覚醒しない。
獣並みに気配に敏感な彼女がここまでされてなお起きないのは異常であった。
ふっと息を吐き、頬から手を離したのは麗夜ではない。
指についた雫を眺め、その人物はニコリと笑う。
「早く起きなよ…、お姫様?」
ひとりじゃつまらないだろう?
夢の中で、ひとりぼっちは寂しいだろう?
起きたら遊んであげる。だから、早く…
「みんな待ってるから、さ」
狐のように目を細め、青年は笑った。
早く、あそぼうよ。