桜ノ少女

□第14話
1ページ/5ページ



「――団長。




「妹さんと、そっくりですね」


放たれた言葉に、全員が凍りついた。
目の前の銀時にクスリと笑みを見せれば、面白いほど動揺した。

『へえ、見つけたんだ。まあ、お侍さん探してって言ったのは俺だけどさ』

携帯から聞こえてくるその声に、新八と神楽が息を呑んだ。
いつもと違う――見る者がぞっとするような笑みを彼らに向け、悠南は銀時と沖田の間で立ち止まった。
沖田に背を向け、銀時と対面する。
張り付けた笑顔のまま、彼女は口を開いた。

「身分を明かすつもりはなかったのですが――仕方ありませんね。上には適当に言っておきましょうか。……改めて、自己紹介を」

ちら、と背後の沖田と土方を見つつ、悠南は彼らが聞きたくないであろう名前を口にした。

「春雨第七師団――

「副団長補佐、悠南です」

すう、と沖田の顔から血の気が引く。
先程より一層張りつめた空気の中、土方が刀に手をかける。

「春雨…第七師団だと…」

一瞬で敵と判断した彼は、そのまま抜刀しようとした。
しかし。

「やめておいた方が良いですよ。あなたじゃ私に勝てない」

気配もなく傘で制され、土方は内心呻いた。
…全く読めなかった。
悠南はただ背を向けたまま、首だけ回し、土方を見た。
アイスブルーの眼がきらりと光る。

「私は、敬語を敵に使いません。敬語が取れたら…、死を覚悟して下さいね」

傘の先端が、土方の喉元へ移動する。
微量に漏れ出る殺気が、彼の動きを止めていた。
手が刀から離れるのを見届けると、悠南は再び電話口へ話しかけた。

「すみません、団長。また後で折り返し電話します」
『えー、まあ仕方ないね。じゃあね』

プツリと通話を切ると、仕舞うポケットもないために携帯を持ったまま土方を見上げる。

「…私が真選組に入ったのは、潜入の命令が下されたからです」

先程とは一転、真剣な表情になった少女は傘を下ろし、話し始めた。

「期間は三ヶ月。内容は、真選組の内部事情を探ること。そして潜入開始から、約一ヶ月。私は刺されました」

ひと呼吸置き、くすりと笑う。

「おかしいとは思っていたんです。わざわざ私に宛てた辞令が、上司ではなく直接私に来ましたし、おまけにその命令を出したのが誰なのかもはっきりしていない。怪しさ爆発ですよ。というか第七師団の副団長補佐に潜入なんてやらせますか普通。副団長に補佐なんてついてんのうちだけだし。何のためにつけたと思ってんだ。……まあ、一人で地球来るの初めてだしなんか三ヶ月あるしちょっとデスクワークに疲れてたので結局来ちゃったんですけど。あー帰りたくなくなってきた」

中盤からはもう愚痴である。
警戒しながらも、土方は気になっていたことを聞いた。

「命令したのが誰か分からないってのは、どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ。お偉方だけ使える印が押された辞令を下っ端の下っ端の下っ端が届けに来たんです。胡散臭いでしょう?」
「その印が偽物っつー可能性はねェのか」
「それはありえません。偽造ができないようにされていますし、しようと思っても精巧すぎて不可能です」

話が脱線したのを戻そう。

「まあ、それはあまり問題ではありません。注目すべきは私を刺した奴です」
「ああ。そいつがどうした」
「私がどうして身分を明かして、こんなにぺらぺらしゃべってると思います?」

真面目な顔で問われ、土方は眉をひそめる。
普通、こんなに情報をしゃべりまくるのは、

「後で黙らせる―――殺せるから、って訳でもねェな。…じゃあ何でだ……?」
「それは互いが敵同士の場合です。……協力してくれないかと思ったんですよ。いきなり辞表出して失踪した理由考えるのも面倒だったし、これなら警察も動いてくれないかなーって」
「要するに、嘘を吐くのに疲れたんだろ」
「いえ、別に苦痛ではありませんでしたよ。性格も無理に変えてませんし。ありのーままのーですよ。…そもそも私は頭脳派ではないんですよ。考えるのに疲れたんです。……で、ですね」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ