桜ノ少女

□第11話
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朝、目覚めた悠南を待ち受けていたのは、沖田の寝顔だった。

「――――っ!?」

予想外の出来事に遭遇し、悠南はしばらく呆けていた。

「なに……、この状況は………」

熟睡している沖田は起きる気配もない。
しかも、彼の腕にしっかりと抱きしめられた状態だ。抜け出せないこともないが、起こしてしまうだろう。

首を反らして(普通は結構疲れる)枕元の時計を見る。
5時10分前。女中の悠南は、隊士の朝食を作らなければならないが、今日は幸か不幸か非番だ。どれだけ寝ていても誰にも咎められない。

……咎められないのだが、横で寝ている青年はどうなんだ――。

しかも、昨日の失言からなぜこんな状況になっているのかが全く分からない。何があったのだろう。

何度か見た沖田の寝顔は、いつもの彼からは感じられない、青年らしさが滲み出ていた。

「……ごめんなさい」

八つ当たりのような真似をして。
勢いに任せて、少しまずいことも言ったかもしれない。

「………何を謝ってるんでィ?」

寝ていたはずの人物の声が響き、悠南は目を瞠った。

「……起きてましたか」

寝息は聞こえていたのに、いつの間に目を覚ましたのだろう。

「さっき起きてねィ」
「そうですか。おはようございます」
「あァ」

まだ眠たげに欠伸をし、沖田は身動きをすると、悠南を抱きしめ直した。
その仕種が神威と重なり、悠南は微かに息を呑んだ。

「……沖田さんは、私の知っている人と少し似ていますね」
「知っている人?」
「はい」

楽しげに笑う悠南を見て、沖田は言葉に詰まった。

(こんな顔も、できるんだねィ)

いつも感情の読めない笑みを浮かべているせいで、沖田は悠南の本心を見たことがなかった。
こんなにも近くにいるのに、心はいつも遠かった。

それでも今、少し距離が縮まったような気がした。
たとえその要因が、沖田ではなく他の人間だったのだとしても。
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