桜ノ少女

□過去編3
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ベッドで一日中ぼうっとしている生活が続き、悠南は正直、退屈していた。
まだ幼いこともあり、難しい多くの物事を長く考えられないのだ。
椅子の上に積み重ねられた本をじぃっと見ている。

「……気になるかい?」

机の上に突っ伏して寝ていた迅が、いつ起きたのか、くぁっと欠伸をした。猫というより、トラやライオンといった野生の大型動物を連想させる。
それを不思議に思い、首を傾げた。

(獣……みたいな、においがする)

実際に臭うのではなく、何となく、感覚で分かる。
そう思い当たり、少し嬉しくなった。

「………強いんですか?」

唐突に尋ねた悠南に迅はさして驚きも現さず、ぐしゃぐしゃと悠南の頭を撫でた。

「まあ、夜兎の血は混じってるから。強いか弱いかって聞かれたらまーまー強いんじゃないかな」

まあまあどころではない。彼が本気になれば自分など一瞬で物と化すだろう、と迅の向かい側で仕事をしていた黎雅は思った。

普段からは全く感じさせないが、いざとなれば黎雅のように戦闘経験もない、全くの素人を震え上がらせるほどの殺気を出す迅だ。その実力がまあまあで済まされるものではないことは、はっきりと認識していた。

呆れたように溜息をついた彼を、悠南が首を傾げて見ている。
その頭をまたぐしゃぐしゃと撫で、迅はやりかけの仕事に戻ったのだった。



――平穏な毎日が終わるまで、あと約一年。

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