桜ノ少女
□過去編3
1ページ/1ページ
ベッドで一日中ぼうっとしている生活が続き、悠南は正直、退屈していた。
まだ幼いこともあり、難しい多くの物事を長く考えられないのだ。
椅子の上に積み重ねられた本をじぃっと見ている。
「……気になるかい?」
机の上に突っ伏して寝ていた迅が、いつ起きたのか、くぁっと欠伸をした。猫というより、トラやライオンといった野生の大型動物を連想させる。
それを不思議に思い、首を傾げた。
(獣……みたいな、においがする)
実際に臭うのではなく、何となく、感覚で分かる。
そう思い当たり、少し嬉しくなった。
「………強いんですか?」
唐突に尋ねた悠南に迅はさして驚きも現さず、ぐしゃぐしゃと悠南の頭を撫でた。
「まあ、夜兎の血は混じってるから。強いか弱いかって聞かれたらまーまー強いんじゃないかな」
まあまあどころではない。彼が本気になれば自分など一瞬で物と化すだろう、と迅の向かい側で仕事をしていた黎雅は思った。
普段からは全く感じさせないが、いざとなれば黎雅のように戦闘経験もない、全くの素人を震え上がらせるほどの殺気を出す迅だ。その実力がまあまあで済まされるものではないことは、はっきりと認識していた。
呆れたように溜息をついた彼を、悠南が首を傾げて見ている。
その頭をまたぐしゃぐしゃと撫で、迅はやりかけの仕事に戻ったのだった。
――平穏な毎日が終わるまで、あと約一年。