桜ノ少女

□第7話
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悠南が真選組に来てから約一ヶ月。
女中の仕事をそれなりにこなし、何かと絡んでくる沖田をかわしつつ、そこそこ充実している――、と思っていた日にそれは起こった。
否、起こっていた。


買い出しの帰りだった悠南は、道路のど真ん中で二人の男が言い争っているのをたまたま見たのだ。
一人は土方だった。そして、もう一人が――

「銀髪の……侍?」

腰に木刀。死んだ魚のような目。
悠南は目を細めた。

「あの人……」

――強い。
雰囲気で分かる。だが、それは地球人として見ての話だ。

「夜王鳳仙に勝った……ね。さすが侍といったところかしらね」

くすりと笑い、悠南は二人に近づいた。

「副長さん、お仕事の途中ではないんですか?」
「夏風!?」

まさかこんな場所で会うとは思っていなかったらしく、土方が大袈裟に飛び上がった。

「おー、綺麗な子じゃないの。多串君、この天使ちゃん誰?もらっていい?」
「駄目に決まってんだろ!こいつはうちの女中だ」
「夏風百合です」

軽く頭を下げ、銀髪の侍を見た。

「あ、コレ名刺。銀さんとか銀ちゃんとか呼んで」
「よろしくお願いします、銀さん」

名刺に視線を落とすと、『万事屋 坂田銀時』と書かれていた。

(あっさり本人見つかったわね……)

こんなに早く向こうから出てくるような形で発見するとは、誰も思わないだろう。

「万事屋、ですか」
「そ。金さえ払ってもらったら何でもす――ぶっ!」

凄まじい勢いでぶっ飛んできた少女の足が、ちょうど男の頭を蹴り飛ばしたのだ。

「あ、銀ちゃんごめん。あのサドが悪いアル」
「痛ェェェ!!」

悠南は目を見開いた。

(団長に………似てる)

そう、思った瞬間、悠南の脳裏に、吉原から帰って来た時の二人の様子が浮かんだ。


『あーあ、ボロボロだ。本っ当にあんたの身内だな。こてんぱんにやられたよ』
『さっきからそればっかりだなあ、阿伏兎は』
『将来有望なのはいいが、敵だからなァ……』


――身内。
――つまり、妹だ。

神威は悠南と同じで、あまり自分のことを話さない。

過去など、聞いたこともなかった。

(捨てて、来たのね)

家族を。
ただ、強さだけを求めて。
そっと瞳を閉じ、ゆっくりと開く。

「ん?銀ちゃん、このお姉さん誰アルか?」
「あー、新しく入った子」
「真選組の女中にな!」
誤解されないように土方が付け加える。
「そんな所にいたら人生めちゃくちゃになるネ!!うち来るヨロシ」

凄い剣幕で悠南にすがった少女は、微かに眉を寄せた。

「………ん?」
「……どうかした?」

相手は神威の妹だ。警戒しながら問うと、少女は首を振った。

「私、神楽言うアル。お姉さんは?」
「私は夏風百合。よろしくね、神楽ちゃん」

唐突に名乗った神楽に全く動じず、悠南は笑顔で返した。
動作が突然すぎるのは、神威で慣れているのだ。

「チャイナ、いい加減百合から離れろィ」

妙に剣呑な雰囲気の沖田が、神楽を悠南から引っぺがす。

「何するネ、このサド!」

邪険に扱われた神楽は、当然怒った。

「何。この子沖田君の彼女?」
「――断じて違います」

屯所内での扱いが既に『沖田の彼女』になっている悠南は、柳眉を吊り上げて言った。

「酷ェなァ。あんな事とかこんな事とかし」
「膝枕とやたら絡んでくること以外に、何かありました?」

悠南の笑顔に、妙に感じる危機感と同じものを察知した銀時が、視線を逸らしながら後退する。

(何かこの子怖いんだけどォォ!)

「キス未遂……かねィ」
「いつですかそれ!?」

全く知らなかった悠南は、ぎょっとして沖田を見る。

「一昨日だ」

悠南の問いに、なぜか土方が答えた。

「……どうして副長さんが答えるんですか」
「土方さん死んで下せェ。三秒以内に」

沖田と悠南の声が合わさる。

「やっぱり百合は万事屋に来るべきアル。ねえ、銀ちゃん」
「無駄だぜィ、チャイナ。百合は収入が安定してねェと行かねェ。そもそも俺が行かさねェ」

沈黙したその場に、悠南の呟きが落ちた。


「……確かにお給料がよかったからって言いましたけど」
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