桜ノ少女
□第5話
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ここは、副長室。
悠南と向き合う形で、土方があぐらをかいていた。
「えー……と、夏風百合さん?本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫です。体力はありますし、一通り護身もできます」
笑顔で答えた悠南に、土方はがりがりと頭をかいた。
「護身ができる女中なんて、そういませんよ?」
だが、見た目は華奢な少女だ。
土方は紫煙を吐き出すと、灰皿に煙草を押し付けて火を消した。
「……わかった。仕事がキツかったらすぐに言えよ」
「はい。ありがとうございます」
「ちなみに、歳は?」
なぜそんなことを聞いてくるのかと思いつつ、口を開く。
「十八です」
「総悟と同い年か……。気をつけろよ、あいつはドS――」
言いかけた土方に、バズーカが直撃した。
凄まじい音と風に顔を庇いつつ、悠南は横に来た沖田を呆れながら見上げた。
「何やってるんですか」
「土方抹殺でさァ。これで副長の座は俺のもの」
「総悟ォォ!!てめぇ、何回俺の部屋を破壊したら気が済むんだ!」
「土方さんを殺すまでです」
何を当たり前のことを言ってる、と言いたげな顔をし、沖田は黒煙の中、咳込んで出てきた土方ににやりと笑った。
「……何その笑顔。すげーむかつく」
土方の髪は見事なアフロになっていた。
「大丈夫ですか?」
「……ああ」
「土方の心配なんかいらねェや。こっち来なせェ。俺が調教してあげまさァ」
「遠慮します」
ある意味神威よりもたちが悪い、と悠南は密かに思った。
沖田は既にどこからか取り出した首輪を握っている。
「…………」
沈黙した土方が、黙って悠南の肩に手を置く。
(こいつが危ねェェ!)
冷や汗をかきつつ、土方はそろりと後ずさった。
すると、必然的に悠南の肩が少し土方のほうへ引き寄せられる形になる。
『全力で逃げろ』という意味だったが、悠南はちらりと笑っただけで、動こうとしなかった。
『大丈夫です』と、唇が動くのを、土方は全力で首を振って否定した。
『んなわけねェだろうが!こいつはサディスティック星からきた王子だぞ!』
「土方さん、何百面相してるんですかィ。残念ながらあんたにやる首輪は――」
沖田は白い目で土方を見ている。
「誰がいるか!!ほしがってもいねェよ!」
「……私もいりませんけど」
「まあ、あんたは首輪より何かコスプレした方が似合いそ」
「しませんし似合いません」
沖田の言葉を途中で遮り、悠南は土方を見上げて微笑した。
「危なくなったら、助けを求めるのでその時はよろしくお願いしますね」
「……ああ」
綺麗に整った美しい笑みに一瞬見とれ、土方は焦って目を逸らした。
「7時から宴会がある。隊士たちに紹介するからな」
「わかりました。……ここの地図とかありますか」
「ないな」
広すぎる屯所に、本気で迷う心配をしている悠南だったのだが、土方の返答にがっくりと肩を落とした。
(慣れないといけないってことね……)
春雨も大分大きいのだが、幼い頃からいるので迷うことなど一切ない。
「……お前、方向音痴か?」
「いいえ」
「じゃあ大丈夫だろ。総悟、案内してやれ」
悠南が沖田を見ると、彼は欠伸をしていた。
「今何時ですかィ?」
「2時です」
「じゃあ、行きやしょう」
再度欠伸をし、沖田は悠南の手首を掴んで引っ張った。
そして、ボソッと呟く。
「サボりに」
「……………」
幸い土方には聞こえなかったらしく、悠南はほっと息をついたのだった。