桜ノ少女
□過去編2
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少女を春雨の自分の部屋に運び込むと、男は『危険対象』と書かれた資料に目を通した。
陽桜族:美しい顔立ちに、白い肌。夜兎に劣らぬ傭兵部族だが、怪力、食べる量も夜兎よりも少ない。太陽にも強い。
夜兎とは敵対関係。そのせいで数が減ったといわれている。
非常に賢い部族で、目的を達成させるためにはどんな手も使う。
「目的を達成するためには、どんな手も使う、ね。だから敵対している夜兎のところにも平気で潜り込むのか」
だるそうに椅子にもたれ、眠る少女を見やる。
「まあ、夜兎の格好しとけばバレないバレない。見分けつかないから便利だな〜」
「………で………」
少女が何事かを呟いた。
男は軽く眉を上げ、少女に近づいた。
「………か、ない…で……。いかないで……」
「………」
大粒の涙が、少女の頬をつたって落ちた。
「おかあさま…………」
男は椅子を引き、少女の枕元に座った。少女の震える手を包み、頭を撫でる。
「………親に、捨てられたのか。その心の傷が治るまで、俺が傍にいる。長い長い時を経て、ゆっくりと癒せ。そのくらいしか、俺にはできないからね」
この幼さでこんなにも傷つき、ぼろぼろになっているのだ。治るのは、時間がかかるだろう。
***
しばらく少女の頭を撫でていると、部下が遠慮なしにずかずか入り込んできた。
「仕事サボらないで下さい!あんたこの子を口実にしてるでしょう!」
「うるさいなー。起きたらどうするんだよ」
やる気のない上司に、部下は眉間に皺を寄せた。
「いつからロリコンになったんです?」
「ロリコンじゃないよ。だいたい医療班なんだからこれが仕事だよ」
「他にもあるでしょう!書類とか!しかもあんたやたら強いだろーが」
敬語が取れているのも気にせず、男は欠伸をしながら部下を見上げた。
「母親が夜兎の血を引いてるだけだよ」
肩をすくめ、男は椅子にかけてあった白衣に手を通した。
「ああ、この子の服用意しといて」
「分かりました。チャイナ服でいいですよね」
「何でもいいと思うよ」
適当な彼に部下は呆れたような目を向けたが、自分も女物の服などはさっぱり分からないのでそこは黙っていた。