桜ノ少女

□第3話
1ページ/2ページ


悠南が真選組に潜入する朝。

いつもと同じ時間に目を覚ました悠南は小さく欠伸をし、身を起こした。
珍しく力を込めていなかったのか、神威の腕からするりと抜け出せた。

「……………」

掌を見つめる。
昨日、繋いでいた手を。

(何も、ないわけじゃない)

親に捨てられ、春雨で育った悠南は自分しかなかった。

自分しか、信じられなかった。
弱かったら、消されてしまう。

春雨とは、そういう場所だから。

(……けれど、この人の下なら)

安心できる。強いものにしか興味がないから。
興味が失せたら、神威はきっと悠南を殺すだろう。
躊躇いもなく、あっさりと。
それがいつになるのか、悠南にはわからない。

ただ、この人になら殺されてもいいと思った。

記憶のあやふやな、遠い昔に。

この命に執着はない。
いつ死んでも、悠南は別に構わなかった。

「……こんなこと言ったら、怒りますよね」

幾つもの命を奪ってきた。まともな死に方など、待ってはいないことはわかりきっている。
神威や阿伏兎と同じように、悠南の居場所は戦場しかない。

「私は弱いですよ、団長……」


それでもあなたは、私を傍に置きますか?
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ