桜ノ少女
□第3話
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悠南が真選組に潜入する朝。
いつもと同じ時間に目を覚ました悠南は小さく欠伸をし、身を起こした。
珍しく力を込めていなかったのか、神威の腕からするりと抜け出せた。
「……………」
掌を見つめる。
昨日、繋いでいた手を。
(何も、ないわけじゃない)
親に捨てられ、春雨で育った悠南は自分しかなかった。
自分しか、信じられなかった。
弱かったら、消されてしまう。
春雨とは、そういう場所だから。
(……けれど、この人の下なら)
安心できる。強いものにしか興味がないから。
興味が失せたら、神威はきっと悠南を殺すだろう。
躊躇いもなく、あっさりと。
それがいつになるのか、悠南にはわからない。
ただ、この人になら殺されてもいいと思った。
記憶のあやふやな、遠い昔に。
この命に執着はない。
いつ死んでも、悠南は別に構わなかった。
「……こんなこと言ったら、怒りますよね」
幾つもの命を奪ってきた。まともな死に方など、待ってはいないことはわかりきっている。
神威や阿伏兎と同じように、悠南の居場所は戦場しかない。
「私は弱いですよ、団長……」
それでもあなたは、私を傍に置きますか?