桜ノ少女
□第2話
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悠南は瞬いた。
昨日の夜の記憶がない。
(あ……寝ちゃった?)
いつものように神威に抱きしめられた状態ということは、運んでもらったらしい。
間近にある綺麗な顔を見つめる。
(いつも思うけど……、団長って寝顔はかわいいわね)
相変わらずアホ毛は跳ねているのだが。微かに身じろぐと、パチッと目が開いた。
「う〜、もう朝?」
大きく欠伸をし、神威は悠南の顔を覗き込んだ。
「疲れ取れた?全然動かなかったから、爆睡してたみたいだね」
「そうみたいですね。夢も見ませんでした」
「じゃ、今日はデートしようか」
いきなりの衝撃発言に、悠南は沈黙した。
今までの会話から、なぜ『デート』という言葉がでてくるんだ。というより、これは言葉か?新種の生物の名前とかじゃ……。
そこまで考えた悠南が最終的に発したのは、
「…………はい?」
だけであった。
「だから、デート。今日から地球に三日間停泊だよ?」
「わかりました。要するに、私か阿伏兎さんにたかるつもりですね」
「……デートって言ったよね?」
少しむっとした表情で言い、神威は起き上がった。
「今日は二人だよ」
「……団長、食べる以外に何をするんですか」
「買物」
「……何の」
「悠南の服」
一瞬で硬直した悠南は、ぎくしゃくと首を傾げた。
「熱でもあるんですか?」
「ないよ」
疑わしげな表情になった悠南は、手を伸ばして神威の額に触れた。
「……ありませんね」
「何で残念そうなの」
笑顔で迫る神威に少し身を引く。
「地球で服がいるだろ?巻物だったっけ?」
「着物です。……いいんですか、付き合わせて」
「地球のご飯は美味しいからね」
「……やっぱり食べ物なんじゃないですか」
「ついでだよ、ついで。メインは買い物」
そう言うが、神威の食べる量は悠南の比ではない。悠南は夜兎にしては小食で地球人の成人男性くらいで事足りるが、神威は――
「団長、夜兎の中でも食欲が凄いですからね」
「まあね。向こうで日光はどうするんだい?」
今は冬だ。そんな時期に日傘を差していては、夜兎だと一発でばれてしまう。
「夜兎専用の日避けクリームを作ってもらいましたから、大丈夫です」
「ふーん」
猫のように欠伸をして、神威は揺れ動くアホ毛を目で追う悠南を見下ろした。
天使のような、といった表現がぴったりの美少女だ。地球に行けば、そこら辺の野郎を刺激することに――
「やばっ……」
「何がですか?」
「悠南、大丈夫かい?」
いきなり話が変な方向に反れた気がして、悠南はパチパチと瞬いた。
「団長、何が“大丈夫”なんですか」
「向こうで絡まれたら――」
「――本っっ当に熱ないんですか?」
柳眉をぎゅっと寄せ、悠南は神威の顔を覗き込んだ。