彼と彼女の1ヶ月

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レティシアはまず、標的の身辺を調べ始めた。
名は、シルヴィア・クロックフォード。
人あたりが良く、教養も高い。それなりの美人で通っており、評判も良い。
家は中級貴族寄りの上流貴族。
そのためか友人も多くおり、社交的な性格と見受けられる。
その家柄と気質から、縁談話も頻繁にあるらしい。

レティシアはそこまで調べ上げ、眉を寄せた。
彼ほどの行者が調べたにも関わらず、こうした良い情報しか出てこないのは珍しいを通り越している。
どれほど裏で遊んだり質の悪い趣味に手を出しているのかと想像していたのに、拍子抜けである。
首を傾げながら、彼は今度は“裏”の情報を集めにかかった。

ところが、だ。

目的の情報は、一切出てこなかった。
名前を出しても、人相を聞かせても、彼女のことは誰も知らない、見たことが無いと言った。

「名は知っている。だが、こんなところに足を突っ込むような人じゃない」

その地域一帯の情報を握っているという男に話を聞くと、そう返答があった。
眼を細めたレティシアに、男はさらにこう言った。

「ただ最近、ある名門貴族のお嬢さんがそン人を逆恨みしてるっつー話は聞いたがねェ」
「逆恨み?」
「あァ。男さ。自分が冷たくあしらわれたのにクロックフォードのお嬢さんとは仲良くやってンのが気に食わなかったらしいな」
「へぇ……」
「どうもその男、ほかの女にもそれほどいい態度を取らないらしくてねェ。クロックフォードのお嬢さんにだけ優しいのは、お嬢さんに気があるって噂さ」
「事実はどうなんだい?」
「それァ俺でも知らねェよ。お嬢さんもそのことについては知らんのか、特に何も言ってないな」

そこまで聞くと、レティシアは男の名と噂の女の名を得て情報屋に金を払った。
どうやら面白いことになっているようだ、と笑いながら。



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