Short Story
□好きって言うまで放さねぇ
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好きって言うまで放さねぇ
あれから、何ヶ月かたった。
…というか、たってしまった。
自分でも驚くくらい、順応力があったようで、今ではすっかりここでの仕事に慣れてしまっている。
…仕事なんて言うけれど、基本的にはお掃除とか食事の運ぶ作業とか…誰でも出来そうなことだと思う。
でも、ザンザスさん曰く、スクアーロさんが連れてきたメイドさんは役立たずだったって…相当なドジっ子メイドさんだったのかな。
あの日…
私がザンザスさんに拉致?された日は、場の流れというか、雰囲気のままに承諾をしてしまったが、よくよく考えてみたら、元彼のいる職場で私はいつも通りまともに働けていただろうか。
答えはノーだ。
きっと、私のことを大袈裟な奴だと笑う人がいるだろう。
けれど、私には無理なのだ。
元々メンタルが異常に弱い私。
それに加えて、別れたあの人…
実は、私の直属の上司だったりする。
何だかんだいって、今の状況に助けられているのは事実だ。
そこはザンザスさんに感謝すべき?
でも、拉致?だったし…
『わっ!?』
ぐるぐる考えていると、突然背後から誰かに抱きしめられた。
当然持っていた箒は手から離れ、カランと虚しく床に落ちる。
「なまえ、お前……何を考えている?」
『っ、ザ、ザンザス様…!』
耳元に響く低音に、ドキリとする。
「答えろ」
雇い主様の命令ではあるが、ここで、貴方のことです、と言う勇気、私は勿論持ち合わせていなくて。
『と、くに、なにも…すみません、ボーッとして…』
こんな時の常套句。
これで納得したのか違うのか…ただ黙って、私の首筋辺りに顔を置くザンザスさんに、ただただ戸惑う。
ふと、さっきまで考えていたことを思い出す。
この人には感謝している。
確かに無理矢理感満載の転職だったけれど、お給料は確実にいいし、何より居心地が良い。
ちょいちょい物騒だけれど、それをひっくるめて、私はこの人から目が離せないでいた。
気付けば、この人から離れ難いと思う私がいたのだ。
その考えがストンと私の中に落ちてきた瞬間、今は私にやれることをやろう、という決意みたいなものが生まれた。
ならば早速、ここの掃除を終わらせたい…のだけれど…。
それには先ず、この拘束状態をどうにかしないと。
『あ、あの、ザンザス様。掃除の続きがしたいので、放し…』
「好きって言うまで放さねぇ」
やんわりお願いしようとしたものの、途中で断られた。
確かに、この人の側にいたいな、とは思ったけれど…
最近やたらと増えたこういう命令は、やはりどうかと思う。
(好き、です…)
(……)
((放すどころか、さらに腕に力が入ってる!?!?))
End
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周りに誰もいなければ、このボスはどんどん暴走してそうだな…っていう勝手な考え←
2015.2.17