Short Story
□キス一回で許してやる
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「…は?」
『…え?』
銀髪さんと一緒に、フリーズ。
えっと、使用人…?
メイド…って…?
悶々と頭を必死でまわすも、考えがどうにもまとまらない私をおいて、銀髪さんはフリーズ状態からいち早く脱していた。
「お前はまた、何勝手に…」
「るせぇ、ドカス」
「うぉっ!?」
『ひっ!!?』
ザンザスさんのナイスコントロール(?)により、銀髪さんの頭にお酒入りグラスがヒットし、粉砕。
私のグルグルとして飛んでいた思考も現実に戻ってきた。
…て、え、粉砕した?
足元には、氷の一部なのか、グラスの破片なのか、あまりはっきりしない透明な物質がぶちまけられている。
「てめぇの連れてきたヤツは使いモンにならねぇカスだった。だから自分で用意したまでだ」
銀髪さんは、今の言葉に思うところがあるのか、ウッと詰る。
「わかったらこいつの…なまえの部屋を用意しとけ」
とザンザスさんが言うと、銀髪さんは、勝手にしろぉ…と言いながら出ていった。
…って、私の部屋?
『あ、あのぉ…』
「何だ」
『さっきのお話は…一体…』
「……」
ザンザスさんは、新しいグラスにお酒を注ぎながら、こともないように淡々とした調子で私に話した。
「お前は今日からオレの元で働いてもらう」
『え、』
そう言えばさっき、そんな感じのこと言ってたような気もする…けど。
読んで字の如く、私は絶句。
『えと、それは、あの…私には今、一応働き口はあるわけでして…』
「問題ない」
いやいや、問題だらけなんじゃ…
それは今勤めている会社を辞めるってこと…だよね?
停止しかけた脳に鞭打ってたどり着いた考えに、先程のザンザスさんの暴力?さえも忘れ、反論しようとする。
『で、ですが!』
「それ相応の報酬は出す。お前はオレの元で働く…決定事項だ」
『ほ、本気…ですか?』
「ああ」
反論はしようとしただけに終わる。
どこかで既に理解していたのかもしれない。
この人に逆らえるはずなんて、ないということを…
『あなたの、使用人として働け…と?』
「何度も言わせるな」
落ち着いた声とは裏腹に、行動は、荒々しかった。
グラスを勢い良く机に、ガンッ!と叩きつけたのだ。その瞬間蘇る、銀髪さんの光景…
『っ、すみませんすみません!!許してくださいお願いしますぅぅうう!!!』
どんなに理不尽なことを言われ、思考が停止しそうになるとしても、私の脳にバッチリと残ったあの光景は、きれいサッパリ無くなることはないのだろう。
きっと私の頭にもグラスが…そんな嫌な考えに頭を降りたくなった。
「…許さねぇ…」
けれど現実は残酷で。嫌な考えは当たったらしい。
ザンザスさんの持つグラスが上がる。
それはまるでスローモーション。
こ、殺される…!!
『っ、私に出来ることならば何でも致しますのでお許しを…!!』
もうこの際、今の仕事を辞めようがどうでもいい。
この人の使用人という仕事はあるわけだし、就職に変わりはない。ようは転職だ。
ただ天界へ転職するのはイヤ!!
私の必死のお願い(?)に折れたらしいザンザスさんは、そっとグラスを下にさげた。
「そうか、なら…
キス一回で許してやる」
(……え、何故キス…?)
(…そ、れは、あの…頬に?)
(チッ)
(ふあ、す、すみませ…(今はそれで許してやる)
(……へ?)
(さっさとしろ)ギロッ
(っ、は、はい!)
結局私はザンザスさんの元に転職したのだった。
End
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あわれスク…
そして彼女はボスの眼光に勝てなかった…
2014.07.31