雨天決行試合

□1回表
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《1回表》







「おはよう、山本…って、何かあった?」

「え?」





呼ばれて顔を上げると、そこには心配そうな表情のツナ、その後ろには獄寺がいた。

どうやら机に頬杖をついていたまま、上の空だったみたいだ。






「いや、なんかいつもと違う気がして…」

「はは、そうか?」

「そうっすよ、十代目!こいつはいつもこんくらいバカ面っすよ!」

「獄寺、ひでぇ!」

「そういえば今日、転校生が来るらしいっすね」





軽くスルーしてる獄寺に、冷てえと思う半面、助かったとも思った。


ぼーっとしてたのは事実だし、変に心配とかさせたくないからな。


登校中も、朝練の最中も、オレの頭を支配するのは夢の中のあいつ…みょうじって苗字がずっと離れなかった。

そのお陰か、少しずつではあるが、あの頃のことを思い出していた。


オレの家より少し離れた所に、あの空き地はあった。そこは、近所に住む男の子達の秘密基地みたいな所と化していた。

そこそこ広さもあったから野球に限らず、球技なんかが出来た。けどやっぱ、1番楽しかったのは野球だ。もう既にリトルで野球をやってたのもあるがあいつが、みょうじがいるから楽しかったんだ。

野球経験者はオレだけだったかもしれない。みょうじは球技全般…というか、運動神経が良かったから、あの空地に集まる奴らの憧れの存在だった。

しかもすげー優しかったから、一人っ子の奴なんかは、頼れる兄貴みたいな存在だったかもしれない。







「ほらお前ら、席付けよー」






入って来た担任に、少しそわそわした奴が質問をぶつけるクラスメイト。





「先生ー、転校生って男子ー?女子ー?」

「え、イケメンですか!?」

「美少女ですよね!?」

「転校生のハードルを上げるんじゃない!…女の子だ。まぁ、可愛いんじゃないか?」






一瞬にして教室は野太いよっしゃー!!という叫び声が上がる。





「先生、それセクハラー」

「なにっ!?」





先生のオーバーリアクションに沸くクラス。

態とらしく咳払いをすると、廊下に声をかける。





「さぁ、入ってくれ」






僅かに微笑みを携え、漆黒の髪を揺らして教室に入って来た彼女に、息をのんだ。





「みなさん、はじめまして。みょうじなまえと言います。ふつつか者ではありますが、どうぞよろしくお願いします」





拍手や、よろしくー!と言った声が上がる中、顔を上げてニッコリ笑う彼女。

ざわめく教室に似つかわしくないくらい、今のオレには、何も聞こえてこなくて…


ただ、彼女から目が離せない。


みょうじって…


あいつと同じ苗字?





「よし、みょうじの席は山本の隣だな!山本、手上げろ!」

「っ、あ、はい!」





前の方から、ツナがまた心配そうな顔でオレを見ていた。後で謝んねーと、とは思うものの、こちらに近づいてくる彼女、みょうじさんをまじまじと見つめる。

肩より下に切り揃えられた黒髪に、黒い瞳。





『よろしく』




フワッと優しく笑う彼女とあいつがダブって見えて…




なぁ、おまえは…誰なんだ?



2014.04.04

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