雨天決行試合
□始球式
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《始球式》
夢だとハッキリわかる夢。
裸足で部屋着のまま突っ立ってるここは、今じゃ、マンションが建ってっけど、確か、ガキの頃は少し荒れた空き地だった。
ボーッとしながら眺めるオレの前を走っていったのは、間違いなくガキの頃の“オレ”。
グローブして、バット担いで…まぁ、どれも子供用の危なくないやつ。10人くらいの集団で、野球ごっこ。
「はあ!?そっちのチーム、山本とみょうじがいんのかよ!!」
「ズリぃぞ!!」
「ははは、まぁそう言うなって!グッパーした結果じゃねーか」
「笑いごとじゃねーよ、山本!」
“オレ”と帽子を深く被ったやつに、抗議する相手チーム。
「別にいいだろ、もう」
「それはお前のチームに二人いるからだろ!」
「やっぱ二人は最初から別のチームにし「イヤだ」っ、山本…」
いきなり相手の言葉を遮り、睨みつける“オレ”。いや、経験者が偏るから別れるのは、当たり前だろ。
そーいや、結構ガキだったな、こん時の“オレ”……。
そこまで考えて、違和感をかんじた。
『山本…』
いまの今までだんまりだった帽子のそいつは、“オレ”を制する。
「みょうじ、オレ…」
『やっぱり、最初から別れるべきだったんだよ』
「な、んで…」
絶望的な顔をする“オレ”に、オレは息をのむ。
「オレはみょうじと…ーーと同じチームで……!!」
*******
ーー同じチームで……!!
「…野球が、した、い…」
そう呟いてから、ゆっくり体を起こす。すると、それに倣うかのように、頬を何か…いや、涙が伝った。
涙に触れて考える。
あの頃って…いつだ?
夢の中でふと感じた違和感の正体。
それは、これを覚えているようで覚えていないということだ。
あの時隣にいた、帽子のあいつ……
最後に“オレ”が叫んだのは、多分あいつの下の名前。
でも、今のオレには、聞こえなくて……。
「みょうじって……誰だ?」
そう声にした瞬間、何故か胸が苦しくなった気がした。
続
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