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□濁り
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青峰が気だるそうに携帯をいじっている時、クローゼットの近くで何かが動いていた。やけに肌色が多い気がする。


「…お前何してんだよ」

それと焦点が合わさったとき、思わず真顔で一度固まった。
雑に投げつけた質問に「着替え」とだけ返してきた橙色。


「上、着ろ」

「今選んでんだよ」


ブラジャーにジーパンというなんとも誘ってるようにしか見えない光景に、青峰の理性が徐々に削られていく。
鏡の前に立ち、シャツを合わせてはあーでもないこーでもないとブツブツ文句を言っている彼女の背をじっと見つめていた。


「こんな背中綺麗だったっけか」


肩甲骨に触れ、そこから下へ行く骨張った指。


「くすぐったいんだけど」


一般的な“肩をビクッと震わせて小さく悲鳴を上げる”ということはなかった。
根本的に何かがズレている橙島陸は、こうやって青峰が居る前でも平気で着替える。
その度に色々と言われるわけだが、尽く聞いていない。
しかし青峰からしたらラッキースケベに等しいわけで頼まなくても半裸(ただし上だけ)を見ることができるため、そこまで兎や角言わない。


腰まで下った手を、するりと回して彼女を抱きしめた青峰。
抉れた腰に、たまらず両手で。



「前よりも体付きエロくなってねえか?」


「はぁ?」


腰に回された手を特に気にせず服を合わせていた橙島だったが、流石に何かおかしいと思ったため、くしゃりと顔を歪ませた。


「腰のライン、すげーエロい」


いやらしくゆっくり撫で上げてやるとどうでもいいとでも言うような顔をして「前と変わってないけど」と適当な返事が返ってきた。

とことんどうでもいいらしい。


「…やっぱ好きだな。陸の香り」

どうでもいい橙島に対して、その肉体の魅力に取り憑かれた青峰は橙色のボブの髪の下にある首筋に顔を埋めて、ちゅ、ちゅとキスを繰り返していた。


「やだ、なに、今日ずば抜けて気持ち悪いんだけど何かあった?」

キスから逃れるように身体を捩って怪訝そうな顔をしてやると「なんにもねーよ。襲うぞ」と腰を抱く腕に力が入った。

「はいはい、決まったから退いてね」

ぽんぽん、と褐色の大きな手を軽く叩いてやると名残惜しそうに離れていった。





「黒のブラ付けてどこ行くんだよ」


「さつきと遊んでくる」


「またさつきかよ…」


「バイトないの今日しかないんだもんさつき〜」


デリカシーの欠片のない発言も大方見過ごされる。(聞いてないだけ)
先週遊んだばかりだと言うのにまた遊びにいくらしい。
喜々とした様子で軽く化粧をしだす橙島。
その姿をしゅんとした顔で見ている青峰。
散歩に連れていってもらえない犬のようだった。



「たまには俺とも遊べよ」


「え〜?ずっと一緒に居んじゃん」


「…そうじゃなくてよ」

週2のペースで遊んでいる桃井が羨ましくて堪らないのは確かだ。
だが橙島の言うことも一利あり、同棲してる故一緒に居ることはそうなのだが、青峰の中ではどうも違うようで。
やる気のないスウェット姿だけじゃなく、今のような着飾った橙島も見たい、ということだろう。

「なにわけのわかんないこと言ってんだか」

引いたアイラインを適当に手直しして、学生の頃よりも穴の増えた耳にピアスを通しながらめんどくさそうに呟いた。


こんなにも独占したいのは自分だけなのだろうか。

子供のような、馬鹿げた嫉妬心を抑えるにも抑え方がわからず、

「…なんでもねえよ。さっさと行ってこい」

なんて冷たく言い放つ始末だった。

もう一度触れたいと、沸き上がる欲を隠すために。





濁り
(どれだけこの醜さを抱えれば、)

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