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□月にキス
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「……あら、まだ寝てなかったの?」

「お前こそ」

深夜0時過ぎ。
ただ一室を除いては寝静まっていた。

「何してんだ」

窓から差し込む月明かりと、ほんの小さなランプで何かを縫っていた赤紫。

「アンナの洋服、作ってるの」

「死ぬほど持ってんだろ」

「バレンタイン仕様。みんなで出かけるときに着てもらおうと思ってて」

チョコレートを意識した茶色、そこに映える赤や白。
アンナが好きそうなハートマークが沢山散りばめられていて、裾にはフリルがあしらわれていた。

「…いつもミシンでやってなかったか?」

「夜は煩いから。起こしちゃ悪いでしょう」

我が子を慈しむような顔で、淡々と縫い続ける。

「それで、何か御用?あなたも寝れないってこと、ないでしょう?」

邪魔をして申し訳ない気もしてきたが、昼ごろからあまり構えてもらっていない周防にとっては絶好の瞬間。

「……」

「怒ってるの?」

「…別に」

縫い物をする小鳥遊の隣に座り、腰に手を回す。

「いつもお世話になってるから、みんなにあげたの。拗ねないで」

男女関係にある周防と小鳥遊。
やはり特別感というのが欲しいのか、周防は吠舞羅の連中にチョコレートを渡したことが気に食わないらしい。
大人数の時はあまり口に出したり顔に出したりしないがこうして二人の空間になると甘えかかってくる。

「…俺のは」

「明日ちゃんとあげるから」

「…あぁ」

どこか嬉しそうな顔をして窓の外を見る。
部屋からでもよく見えるくらい、月が大きく輝いていた。

「ねえ、尊」

「あ?」

「月が綺麗だよ」

「……そうだな」

ただの感想ではなく、別の意味で言ったのか。
そう思って小鳥遊の頬に触れるだけのキスをする。
くすぐったそうに小さく笑って、「たまには、一緒に寝る?」と聞いてきた。

「文句言うなよ」

「はいはい。でも、服が完成するまで待って」

いつもなら、こんな裁縫如きには何も思わないのだが、今回ばかりは早くしろと内心で思っていた。

「さあできた」と満足気に服を掲げ「完璧」と零せば、周防が待ってましたと言うように小鳥遊の身体を抱き上げて、ベッドへと向かっていった。




月にキス
(昨日の尊、なんか犬みたいだった)
(……狼じゃなくてよかったな)
(何残念そうな顔してるの)

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