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□おれが見えますか
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月は沈み、日が顔を覗かせる。
天道が真上に上がり、丁度昼ごろ。
雲一つない快晴の下、一軒の家。

「……あ、」

一人の女が目を覚ました。

「…あれ…ここ、どこ」

短い茶髪を揺らし、上体を起こす。

「家」

「……あぁ…蒼空…」

「珍しくおそ起きだな〜。変なもんでも食ったのか」

「さぁねぇ…。そんな大層な物食べた覚えないけど」

他愛もない会話をしながら布団を片す。
その光景を見たとき、鉢屋は心底驚いていた。

罪悪感に駆られながら記憶を消したと言うのに平然と日常を繰り広げようとしているのだから。

「ご飯は?食べたの?」

「おれは食った。でも三郎はさっき来たばっかだから食ってない」

「作ってやるとか、そういうのはないの」

「おれの料理よりおまえのほうが美味いんだ。
澪の飯にありつくために来たに決まってるじゃねぇか。
なぁ三郎」

突然振られた質問には「え、あ、」と戸惑うばかりだった。

「見てみろ、美人を目の前に戸惑ってやがる。青いねぇ、三郎」

肘で三郎を小突きながら馬鹿にするような口調で言った。
その様子を溜息を付きながら見る葛城には帝都に居た記憶など綺麗さっぱりのようだ。

「茶化すのはやめなって。まぁ、あたしもお腹すいたから次いでに作るよ」

背を向け、台所へと消えていく。
それを確認したと同時に鉢屋が不知火に小さな声で話かける。


「あの、これってどういう感じになってるんですか」

「あ?
んなのは簡単。
おれと葛城の二人で住んでるココにおまえが居候でふんぞり返って飯食ってる設定」

「それ私が悪い人じゃないですか!」

「悪ぃ。ちょっと盛った」

「だろうね…!」

小声で繰り広げられる会話に葛城が気がつくこともなく、

鼻歌を歌いながら着々と昼食を作っていた。


「…座りっぱなしじゃケツがいてぇ。ちょっくら出かけてくる」

「えっ、じゃあお醤油買ってきて」

「馬鹿やろうまだあるだろーが」

「無くなる前に買うの。なくなってからじゃ遅いでしょ」

「使いっぱかよめんどくせ…」

これでもかと言わんばかりに嫌な顔をしている不知火。

「そんなに嫌ならいいよ。あとで買いに行くから」

「そうしてくれ。おれはただ散歩がしたい」

「やだ、おじいさんみたい」

「だれが干からびたじじいだ」

「そこまで言ってないって」

どこぞの夫婦のような会話をひとつしてから、不知火は家を出ていった。
残された鉢屋は不知火の順応性の高さと演技力をまた改めて尊敬し、台所から流れてくる香ばしい魚の焼ける臭いを楽しんでいた。
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