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□おれが見えますか
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大きな日の丸の旗を天へと穿つ。
並外れた大きさの屋敷がひとつと見渡す限りの庭園。

帝都。


豊かな経済力とずば抜けた武術を誇る人間のみが踏み入ることを許された土地。

ある日、屋敷の地下。
重い鉄の扉の向こうでひっそりと行われていた企画を、学者達は進めていた。

「いまのところ、負け知らずの国を保っているが、いつまでもつかわからない。出くわした者に絶望感を与えるものを造ってやろう」

そう言って学者が造り上げたのは人の形をした生き物。
だが、それは決して人ではない。

高い殺戮能力を持った“怪物”。

全身焼け焦げたように黒く、手には剣のように鋭利な長い爪。
そして浮き出た血管のようなものは気色悪いほどに赤く燃え上がっている。

出来上がった“怪物”を見てもう一人の学者は言った。

「もう少し、人間に近づけた容姿にすれば、こやつらが“怪物”だと知る者は我ら帝都の人間だけになろう」

程なくして、焦げた“怪物”は肌理の細かい肌を持つ人間へと代わり

蒼天の一部を飲み込んだ長い髪の“人間”を【不知火蒼空】。

そして大地を切り取った短い茶髪の“人間”【葛城澪】と。


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その“物質”は華奢で細く、その細さでさえも妖艶にみせる女。

≪そんなものが本当に強者であるのか?≫

帝都にいる大半の人間はその物質の存在を疑い、軽蔑した。

学者は怒ることもなければ焦ることもなく淡々と豪腕なる者を集め
、物質二つを殺戮を行わせた。

結果は怪物の勝利。
雷鳴が轟くように笑う蒼天と、何にも動じない大地が地獄絵図の真ん中、黒ずんだ腕を携え、立っていた。

強者であることが実証された怪物は帝都の幹部へと配備され、人と混じり、何事もなく生活を送っていた。


しかし、ある日の葛城が、どうもおかしかった。
話を聞いてると思えば、明後日を見ていて問いかけても返事は薄い。
訓練の際に突然動かなくなったり無駄な怪我をしたりと、不可解なことばかり。
周囲の人間は化け物だから仕方ないと思っていたが、それが何日も何日も続くものだから心配もされる。
当の本人はお得意の笑顔で「なんでもない」「大丈夫」。

何故、と問うべき学者は死に絶え、葛城の様子は日に日に悪化するだけだった。


幹部の内で密やかに会議が行われた。
一人除いた総勢5人。
議題は葛城澪をこれからどうするべきか。

「生かしておけばいい」

「制御するための方法はこちらでどうにかすればいい」

幹部は各々の意見を口から零すものの、

「だめだ!」

怪物に制される。

「あいつはもう手遅れに近い状況だ」
「もう記憶を消すしかない」

怪物は怪物なりの考えがあった。
このまま生かし続ければ葛城は狂死してしまうのではないか。
故に現在彼女の頭にある記憶を消し、新たな記憶の苗を植えてしまおうと。

これを聞いた潮江文次郎が口を開いた。

「軍人は、力に生き 力に死す」

「ふざけんな…あいつをなんだと思ってやがる…」

拳に血が滲むほど、強く握り締めていた。
その眼光は刃物のように鋭く突き刺さる勢いで潮江を見た。

「戦で死ねるなら本望だろう。放っておけ」

冷徹さだけをその瞳に宿し、不知火を見る。

「信じられねぇ…」

虫の羽音のように小さく落とし、踵を返し部屋からでていった。



「あいつは行動にでる」

まっすぐ長い結った髪を揺らしながら目を細めて笑った。
立花仙蔵は頭の回転が早く、人の精神と肉体を蝕む拷問が得意だ。
故に人間がどのような動きをとるのか容易にわかってしまう。

その隣に座っていた善法寺伊作が「何故?」といいたそうな瞳で立花を見ていた。

「人間というは、八割型ここでそうだからだ。
あいつに人と同じ感情と心があればのことだが」

善法寺は「なるほど」。
にこやかに短く返事をした。
その顔は確かににこやかだが、内心はどす黒い何かで覆われ毒殺を好むとてつもない狂者だ。


「あるだろう。あいつは。
鉢屋を拾ってきたんだ。情はある」

潮江は閉ざされず少しだけ開いた扉の隙間から誰かが横切るのを、しっかりと見ていた。
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