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□迎えてはいけない終末
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帝都とは。
高い知識と武術を持つ者が住まう地。

ある日優秀な学者は言った。

「これではどこと戦争をしてもギリギリでしか勝てない。

もう少し優位に立てるような物質を作ろう」

そう言って学者が造り上げたのは人の形をした生き物。
だが、それは決して人ではない。

高い殺戮能力を持った“怪物”。

出来上がった“怪物”を見てもう一人の学者は言った。

「それでは容姿がそのまま過ぎて殺戮のみ長けすぎてしまう。

相手の懐に入りやすいよう、もう少し変えよう」

そして容姿を変えた“怪物”はこう名付けられた。

【不知火蒼空】、そして【葛城澪】と。


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帝都に送り込まれた物質は、本当に怪物なのか。
それを実証すべく、帝都に居る豪腕なる者を寄せ集め、殺戮を行わせた。

結果、それは本物の怪物であることが実証され、帝都の幹部並みの強さがあるとわかった。

それからは怪物は幹部の地位まで駆け上がり、人と同じような生活を送っていた。


しかし、ある日葛城の様子がおかしかった。
周りの者は心配したが、当の本人は大丈夫だと言い続けた。

何故か造った学者は原因不明の死を遂げしまい、葛城がおかしくなった原因は分からず終い。


そして会議が起こった。

「これから葛城をどうするべきか」

「生かしておけばいい」

「制御するための方法はこちらでどうにかすればいい」

「だめだ!あいつはもうすぐで完全におかしくなる!」

人を制した怪物が言う。

「あいつはもう手遅れに近い状況だ」
「もう殺すか記憶を消すかそれしかない」


これを聞いた潮江文次郎が口を開いた。

「じきに戦争が起きる。その時まで待て」

それを聞いた不知火蒼空は何かを言いたそうにして、部屋を出ていった。

「あいつは行動にでる」

「何故そう思うの?」

「大凡の人間は八割型ここでそうだからだ。
あいつに人と同じ感情と心があればのことだが」

「あるだろう。あいつは。
鉢屋を拾ってきたんだ。情はある」

会議は終わり、各自部屋を散った。
不知火蒼空の弟子のような存在の鉢屋三郎は、師匠である彼女を追手、地下室へ向かった。

無機質なベッドの上で悶え苦しむ葛城澪を切なげに見る師匠。

「・・・・どうするんだ」

「やるさ、勿論」

「・・・裏切るんですか」

「いいよ、どうせ。飽きてるんだ。俺はもういい」

不知火は苦しむ葛城に声をかける。

「葛城、お前はもうじき、“ヒト”になれる」

「・・・不知火・・お前・・・何を・・・」

「お前はもうすぐ・・・俺と違う物質になるんだ」

「不知火・・・!」

不知火は泣いていた。

「・・!鉢屋・・・!止めろ・・・・!」

それを言われても鉢屋は動こうとしなかった。

不知火は確実に葛城を長く生かせる術を知っている。
それが例え己を滅ぼす道を辿ろうとも。

「・・鉢屋・・・!」 


「さらば葛城。次に会うときは俺より優しい“ヒト”になれよ」


瞬間、地下室に光が溢れた。
葛城はうっすらと開いていた瞼を閉じ、涙を一筋流した。

「消したんですか・・・」

鉢屋の声は震えているようだった。

「消したんだじゃない。塗り替えた」

先ほどと調子は同じ。
だが顔は泣いている。

今までの記憶の倍、多くの“ヒト”であるための記憶を葛城澪に植え付けた、ということだ。


親友の亡骸にも等しいそれを抱えて不知火は地上へ上がっていった。
それを追う鉢屋。

その後方にも、追う者が居た。

「不知火、どこへ行く気だ」

進む道、1m先あたりの扉から出てきた七松小平太。
計算されていたような気もする。

「どこだっていい」

「私には関係ないの」

「全くない」

「・・・冷たいね」

気にも止めず、不知火は進む。
後ろの鉢屋は恐怖で竦み上がり、いつ足が止まるかわからない。


暫く進んだところで、足音が止まない。

「鉢屋、」

「なんですか」




「走るぞ」

小声で告げた不知火。
鉢屋の返事も聞かずに走り出す。

流石は怪物。
速さがおかしい。

風を切るとはこのことだろうか。


走り出すことを予想できていた追手は、回り込んでいたようだ。
だがしかし、不知火は怯むことを知らず、走っていく。

鉢屋は人である以上、ぶつかると言う想定ができているため、速度が緩む。
だがそれを許さない不知火は鉢屋の腕を掴み走る。

速度が不知火が走る速度に合わされ、鉢屋に負担はなくなった。

追手も、まさか突っ込んでくるとは予測できず、道を開けてしまった。

それをいいことに帝都の地を抜け出していった。





「・・・・今度会うのはいつだろうかな。

化け物」

潮江文次郎が窓の外へ言った言葉は、追手の雑踏に消されていった。
この時、満月だった。
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