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□ちょっと聞いてよ、
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ちょっとふざけて嫌いと言ってみた。
勿論いつもの悪戯。

なんだか知らないけど、尊がその後バーを出ていった。

きっと急用を思い出したのだろうと思ったけれど

「拗ねてるで」

薙ちゃんがそう言うものだから。

「追うべきかしらァ」

「追うべき。迷わず」

即答されたのには笑った。

ハッタちゃんやきゃりーには好きだとか色々言ってるのに、尊には嫌いって言ったのがよくない。
と言うか尊に嫌いって言ったらいけない。

澪ちゃんの必死すぎる説明にまた笑いそうになる。

「ただの悪戯だったんだけどねェ」

「いや、度が過ぎてるっスよ」

「かなりショックだったと思います、尊さん」


何よ、この集中砲火。
まぁ確かに悪戯は控えめにしろとは言われたけど。
そんなにエグイ内容ではないと思うのね。

「知らないの、彩葉ちゃん。
キングはね、彩葉ちゃんのこと大好きなんだから。

それなのに嫌いなんて言われたらね〜・・・。
俺だったら凄い悲しい」

「私も、悲しい」

「あたしも悲しいなぁ・・・。嘘でも嫌いって言われたら」

「そんなこと言われた日には断食しますね」

「いいじゃねぇか、痩せられて」


「これ、八田ちゃん。あんまり鎌本の事悪く言うと、大好きなお姐さんに嫌われるで」

「く、草薙さん・・・!」


どうやら、謝りに行けって言ってるみたいに見える。
多分遠まわしでそうなんだと思う。

本音と冗談の境目を理解してくれてると思ってたんだけど、今回はどうもわかってくれなかったみたい。

「しょうがないわねェ・・・。探してくるわよォ。」


このままほっとけば帰ってくるもんだとおもうんだけど。
どうやら、待つことは許してくれないこの子たち。
妥協して、さぁ仕方なく拗ねた王様探し。






とりあえず、出てきたはいいけど


行き先なんて知らなかったんだ。


はてさて、どうしようかな。
何かあればいいけど、何もない。
都会に近いここに何かあると聞かれれば
ビルと
道路と
公園と・・・

あぁ、公園。

ちょっと休んでいこうかと思って、行ってみたら、あらまぁ。


「・・・お前さ、次ブランコ貸してってゆってきて」
「い、いやだよ・・・!お兄さん怖そうだもん・・・」
「お俺だって怖いんだよ・・・」

坊やが二人。
滑り台の近くで何やら会議中。

ブランコって言うから、それを見たら笑いそうになっちゃった。
あの赤い髪が、
膝に黒い猫抱えて、
煙草吹かしながら、
黄昏てるんだもの。

笑わない方がおかしいと思うのね。


とりあえず、悩める坊やたちの手助けをしようと

「ねェ、坊や。どうしたのォ」

声をかけてみる。



「ブランコ貸して欲しいんだけど・・・」
「怖くて、声かけられないんだ・・・」

子供って純粋な生き物だと実感できた気がする。


「そう、じゃァ、あたしがちょっと行ってくるわねェ。ここで待ってて」

頭を撫でて、にこりと笑えば、何故か坊やたちの顔が悲しそうに歪んだ。

「お姉ちゃん・・・


死なないでね・・・!」

吹き出しかけたのは言うまでもない。
そんなに怖いのね、尊が。

「大丈夫大丈夫。死なない死なない」

片手をパクパクと動かしてさぁ怖いお兄さんの説得へ。
なんとく自分が勇者になった気分で、悪者退治。
そんなこと尊に言ったらぶん殴られるだろうけど。


「猫好きだっけ?」

「・・・あ?」

「わぉ、確かに怖いわねェ・・・」

遠目でも怖いけど

近づいたらもっと怖いわね。

声の低さからしては、かなり不機嫌。

「怒ってるのォ?」

「・・・別に」

「はっきり言いなさいよォ。
アンナみたいに、他人様の胸中なんて、わからないんだからァ」

いつもの仕返しで、抓ってみた。
案外柔らかいほっぺた。

手を離したら、悲しげな目で猫を見ていた。
もしかして、痛かったとか?



「俺のこと嫌いか」

「・・・は?」

まさか。
尊の口からこんな事が。
しかも、無駄に弱々しいところも驚き。
王様のくせに、何よ。
可愛いじゃない。


「嫌いだったら、追いかけてこないと思うんだけどねェ」

「好きか嫌いで答えろ」

「・・・はぁ。
好きだから。心配しなくて大丈夫」


それで、いつもより心配性。
毎回こんな感じならいいんだけど。


「それで、その子はどうしたのよォ。
拾ったの?」

「勝手に来た」

「人に限らず、動物にも人気なのねェ。流石は王様。」

膝の上に座る黒猫を抱き上げて、撫でてみれば、直ぐに懐いてくれた。
この子が人懐っこいだけなのかしら。
それとも、中身を理解できる子なのかしら。

両者な気もするけど、そしたらあたしまで中身が良く出来てる人になっちゃうから前者ってことで。

「可愛いわねェ。飼えば?」

「いらねぇよ」

「折角膝の所あっためてくれたのにね〜。
お礼もなしに、ヤニ臭くなっただけよね〜」


そう言ったら、思いっきり抓られた。
今回のは凄い痛かった。

「・・・痛ァい・・・」

「仕返しだ」

ブランコから立ち上がって、さっさと行く赤。
さっきの坊やたちの顔が泣きそうな顔のような。

「せっかちよねェ」

「にゃ〜」



「お姉ちゃん・・・ごめんね」

「え?」


「さっきのお兄さんと友達だったみたいだから・・・」

この子たち純粋。
将来有望。
ここまで言われるとなんか訳のわからない感動が押し寄せてくるのどうして。


「いいのよォ、だって怖いものは怖いでしょォ」

「でもね、あの人


すっごい優しい人なのよ」


「あ、みんなには内緒ね」

「あの人が優しいってわかっちゃうと、みんな怖がらなくなっちゃうから」


「なんで、怖がられないといけないの・・・?」

「優しい人なんでしょ・・・」


「それが、あの人の決まり事なの。」

「優しい人になりなさいね」



ああ英雄気分。
楽しかった。

背中を追いかけて、バーへと帰還。
黒猫は抱えたまま。


「ただァいまァ」

「おかえり」

「いっつもアンナは最初にお出迎えしてくれるわねェ」

「あ、猫」

「可愛いでしょう。抱いてみる?」

「うん」


これもすんなりとアンナの腕の中で大人しくなる。
いい子だわ。


「わぁ、可愛い。拾ったんですか?」

「尊がねェ」


それを言ったらびっくりしてた。
こんなルックスじゃ、拾うようなタチには見えないわよね。

「みんなで飼ってあげてましょうよ」

「いいでしょう、王様」


「好きにしろ」


寄ってきたとは言うけれど

案外嬉しそうにしてたじゃない。

素直じゃない王様。
そんな王様、みんな大好き。
勿論、あたしも大好き。




ちょっと聞いてよ、
(嘘なんかじゃないの)
(悪戯なんかじゃないの)
(大好きなの)

猫の必要性。
坊やたちは後に吠舞羅に入ってくるといいなって言う願望

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