長編

□プロローグ
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聞こえるのは風の音だけ。
周りには家も無ければ、花も草も木すら無い。

あるのは絶望。

そんな空間の中、白夜叉は立っていた。

(…ここは何処だ?何故俺はここにいる?)

白夜叉は周りを見渡す。
記憶が曖昧だ。いや、ただ思い出したくないだけかもしれない。
身体中からドクドクと絶え間なく溢れる液体の感触、服に染み付いている生臭い赤いそれ。そして、自分が持っている赤い液体の滴る刀。
それが白夜叉を絶望の崖っぷちへと追いやる。

(俺は国のために戦った…。天人はどうなった?仲間は何処だ?)

回らない頭を無理矢理動かす。

(今まで俺たちは攘夷戦争で天人どもと戦っていたはずだ。なのに何故、周りに誰もいない?)

もしかして負けたのか、そんな考えも浮かんだが首を振る。
とりあえず、人を探そうと歩きだすがクラリと目眩がして足が縺れる。
そのままバタリと倒れてしまう。

(あぁ、大量出血か)

意外に冷静な自分を気味悪気に思いながら、仰向けになって空を見上げる。灰色の汚い空。
天人が来てから晴れた日を1度も見たことがない。
これから先晴れることはあるのだろうか。
静かに目を閉じる。目を開けていられる程の力もない。

(俺、死ぬのかな)

目を閉じながらそんな物騒なことを考える。
だが、そんな白夜叉に死への恐怖はなかった。
いつも死と隣合わせなのだから。

(こんな死に方、無様だろ)
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