短編

□“指切りげんまん”
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その後も総悟は俺から離れない。
会議中も休憩中も書類を書いてる時も。

隊士たちは皆、ぽかんと口を開けて驚いていた。

無理もない。
いつも命を狙ってる上司にくっついているのだから。

「おーい、総悟」

だからと言って巡回中までくっついている必要はあるだろうか?

おかけで通りすがる人の視線が痛い。

何だって男同士で腕組んでんだからな。
しかも真選組が。

「なぁ、そんなに怖い夢だったのか?」

言いたくないなら強制しないって言ったが、ここまで来たら知りたい。

「怖いですよ。今まで見た中で一番」

「どんな夢だよ」

「教えません」

「なんで?」

そう問えば、総悟は俺の目を見つめながら、

「言ったら正夢になりそうなんでさァ」

と。

なるわけねぇじゃねぇか正夢なんか。

「オバケの夢か?」

「そんなんでいちいちビビりませんよ」

「……………そうか」

俺は結構ビビるけどな。

「そんなに知りたいですか?」

「あぁ」

「いいですよ。でも絶対正夢にならないって約束してくだせェ」

「うん?」

正夢にならないって約束?
どういう意味だ?

意味が分からぬまま、総悟が差し出した小指に俺の小指を絡めた。
いわゆる“指切りげんまん”。

「俺が見た夢、アンタが俺の目の前から消える夢でさァ」

「え?」

予想外の一言に間抜けな声が出る。

「死ぬとかそういうのじゃなくて、ちゃんと存在があったのに目の前でパッと消えちゃうんです。
存在もろとも簡単に消えちゃったんです」

淡々、と告げる総悟。
珍しい真剣な顔にでこぴんを喰らわしてやった。

「痛ッ!何すんでィ!!」

「神隠しにでもあわねぇ限りそんなのあり得ねぇよ。
つまらないことで悩んでんな」

「つまらないことなんかじゃ…」

目を反らす総悟の頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。

「さっき約束もしたじゃねぇか。大丈夫だ。俺はお前の傍にいるから」

軽く笑ってやれば心なしか、総悟も笑ったように見えた。

「絶対ですぜ?約束破ったら切腹ですからねィ」

「おう、上等だよ」

ということは総悟は、俺が消える夢見て怖くなったんだよな?
でもって、近藤さんの部屋に駆け込んで、俺や山崎にくっついて…。
案外、可愛いところあるじゃねぇか。


こんな些細な一時が幸せに感じられた。

これからも幸せが続きますように。


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