短編

□“指切りげんまん”
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朝、起きて食堂に行ったら総悟がくっついてきた。

それもぴたり、と腕に絡みついてきたのだ。

「総悟?」

「……………………」

無視。

あれだな、新手の嫌がらせだな。
そうに違いない。

だったらこちらも無視するのが妥当だろう。

そう思い、朝飯を食べることにした。

が、

食べづらい。

総悟は利き手に絡みついている。
どうやって食べろと言うのだ。

「おい総悟…一体何なんだ。嫌がらせか?」

「…………………………」

無言の総悟。
キレてもいいですか。

腕を振り払おうとしても更に強く腕に抱きついてくる。

MK5。
マジでキレる5秒前。

短気な俺は5秒待つことは出来なかった。

「いい加減にしろ!!」

食堂に響く声で怒鳴ると、何故か慌てたように山崎がこちらへ走ってきた。

「土方さん、土方さん!!」

「んだよ」

落ち着けと言わんばかりの山崎の顔。

誰だってこんな陰湿な嫌がらせに合えば機嫌くらい悪くなるだろうが。

「土方さん、嫌がらせなんかじゃないですよ」

山崎が必死になって総悟を庇う。

「嫌がらせじゃなかったら何だってんだよ」

「怖い夢、見たそうなんですよ」

ポロ。
取り出した煙草が床に落ちた。

「は?」

ついつい聞き返してしまう。

「怖い夢見ちゃったんですよ、沖田さん。内容は分かりませんが余程怖かったみたいで、近藤さんの部屋に飛び込んできたそうです。
その後も近藤さんや俺にピッタリくっついてて…。
だから、嫌がらせなんかじゃないです。だから、今日は沖田さんに優しくしてあげてください」

総悟に聞こえないようにそう言う。

確かに、今日の総悟は全然悪態もつかない。
よく考えたら俺より早く起きているということ自体がありえない。

そんなに怖い夢なのか?

「総悟、どんな夢を見たんだ?」

総悟に尋ねれば、教える気はないのかぷいと顔だけそっぽを向いた。

「誰にも教えてくれないんですよ。言ってしまった方がスッキリすると思うんですけどね」

山崎の言ってることは一理あるだろう。
怖い夢なんて所詮は夢でしかないのだから、誰かに言ってしまえばただの笑い話になるだろう。

ま、でも言いたくないなら強制しない。

「とりあえず離せ。食えないから」

「…………隣に居てもいいですかィ?」

「え?…あぁ、別にいいけどよ」

俺がそう言うと、総悟は手を離したものの、俺からはピタリとくっついたままだ。

山崎はというと、「沖田さんがデレたァァァァ!!」と叫びながら何処かへ走って行ってしまった。
何なんだアイツは。
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