短編

□本音
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「ねぇ総ちゃん。私結婚しようと思うの」

その言葉を聞いたときは、少しショックだったけれど、
心の何処かがずっと待ち望んでいたような安心感に包まれた。

「おめでとうございます」

幸せそうな姉ににこりと笑った。
それは私が12歳の夏のことだった。


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沖田総 15歳 夏。

おはよう、おはよう、とそんな言葉が飛び交う校庭を教室から見下ろしていた。
わいわいと騒がしい教室の隅で窓の外をぽつんと1人で眺める様子は、最早日常と化してしまった。

人と関わることが苦手な私は、友達が数えられるほど少ない。
昔から極度の人見知りなのだ。

「総!!」

後ろから大声で声をかけられ振り向けば、そこには数少ない友人の1人がいた。

「おはよ、神楽」

神楽。ピンクの髪を団子にした小柄で可愛らしい女の子だ。

「お前外見るの好きアルナー。おもしろいアルカ?」

私の隣に来た神楽は私の真似をして外を見下ろす。

「おもしろくはないよ。暇だから見てるだけ」

「……友達作るヨロシ」

「余計なお世話」

そう言えば、可愛くないヤツと笑われた。

「そういえば…」

神楽が何か言いかけると、
キャーッ!と教室の女子から黄色い声があがった。

「見た見た!?今土方先輩廊下通ったよね!」

「カッコいいよねー!彼女とかいるのかな?」

「そりゃあいるでしょ!あんなに男前なんだから!!」

どうやらカッコいい先輩が廊下を通ったみたいだ。

「土方十四郎知ってるアルカ?今女子の間でカッコいいって話題になってるネ」

「…………別に興味ない」

「ふーん…。ま、そうだよナ」

何を納得したのか神楽は自分の席につく。
…と言っても、私の席のひとつ前だけど。

「……あぁ、そういえば」

机に教科書を突っ込んでいた神楽が顔をあげ、思い出したように私と向かい合う。

「どうしたの?」

「朝、変な男が色んなヤツにお前の名前聞いて回ってたアル」

「変な男?」

「白髪の天パーネ」

「……………おっさん?」

「いや、この学校の制服着てたからおっさんじゃないネ」

知り合いかと思ったが、知り合いには生憎若白髪の天パーの男などいない。

キーンコーンカーンコーンと、チャイムが鳴り、
ガララと先生が教室に入ってくる。

「とにかく、怪しいヤツに違いはないアル!気を付けるヨロシ!!」

珍しく真顔でそんな事を言う神楽に自然に頷いた。

私が頷いたのに満足したのか神楽は前に向き直った。

「白髪の天パーの怪しい男かぁ…」

まるで他人事のように吐かれた言葉は誰にも聞こえることなく消えた。
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