短編

□愛らしいライバルよ、
2ページ/3ページ

「んじゃ、アンカーの人はここでバトンを貰って走ってね」

選抜リレーについての説明を一通り終わらせた先生はにこりと笑い、その場を後にする。

「うわ、アンカーに坂田と沖田いるよ…」

「やべぇ…勝てねぇかも」

がっくりと肩を落とす選手たち。
一方の銀時と総は気にした様子もなく各々体を軽く動かしている。

そして、遂にパァンと音が鳴り第一走者が走り出した。

一走者から二走者、三走者へと順調にバトンが渡されていく。

『おぉと!最初に青組、アンカーにバトンが渡りましたー!!』

と、アナウンスがなり青組の陣地からワァァと歓声が上がる。

そして次に緑組に渡され、白組、黄組に渡される。

「ごめん、総ちゃん抜かされちゃったよ!」

そして最後に赤組にバトンが渡される。

「大丈夫。挽回するから!」

総はバトンを受け取り走り出す。

そのスピードは驚く程速く、1人、2人と抜いて行った。

(よしっ、あともう1人抜かせば銀時先輩に追い付く…!)

隣で走っていた選手と肩を並べる。

「チッ…」

抜かされる、と直感で感じたのか、隣の選手から舌打ちが聞こえてきた。

「……!?」

チラリと総は隣で走ってる選手を見た。
その選手はニヤリと笑うと総と距離を縮めてくる。
そして、

足を引っ掛けたのだ。

「あっ…」

予想外の事にバランスを崩してズシャアァ、と転んでしまう総。

足を引っ掛けた選手は何事もなかったかのように走り続けていく。

遠ざかる足音とは反対に後ろから近づいてくる足音。

総の後ろにいた選手が近づいてきたのだ。

「う……っ」

総は転んだ際に落としてしまったバトンに手を伸ばした。
だが、届かない。
体も動かない。
自然に目尻に涙が溜まっていく。

「頑張れー!」と、何処からか聞こえてきた。

必死にバトンに手を伸ばす。
指先がバトンに触れる。

バタバタと横を通り過ぎる2つの足音。

抜かされた、と分かった時本当に涙が込み上げてきた。

情けない自分に怒りが沸いた。

「沖田さん大丈夫?」

先生が駆けつけてくる。
まだ走らなきゃいけないのに総の体は言うことを聞かなかった。

(諦めるしかないのかなぁ…)

ポロ…っと涙がこぼれ落ちた。




「立てよ」

絶望を感じた時、耳に透き通る声が。
顔を上げれば、そこには一番前を走っていたはずの銀時がいた。
ゴールテープの方を見れば、足を引っ掛けた選手はとっくにゴールしており一位の旗を高々と空に上げていた。
他の選手もゴールしようとしている所だった。

「銀時先輩…っ、何でここに…?何で一位だったのに戻ってきたんですか!?」

「何で…って、お前の背中を押しに?」

「背中を押す…?」

「お前、諦めようとしてんだろ?」

「……………………」

総は銀時の言葉に黙ってしまう。

「転んだくらいで諦めるんじゃねぇよ、立て。アイス奢らせんぞ」

スッと手を差しのばしてくる銀時。

「坂田君、ダメよ。沖田さんは足を捻ってるわ。とても走れる状態じゃない」

しかし先生は険しい表情をしながらそう言う。

「だったら…」

突如、ふわりと総の体が銀時によって持ち上げられた。

「ぎ、銀時先輩!?」

背中と足の裏に手を回し所謂お姫様抱っこをする銀時に総は慌てる。

「走るから落ちないように掴まれよ」

そう言うと銀時はゆっくりと総に負担がかからないように走り始めた。

総も落ちないようにギュッと銀時のTシャツを掴む。
「二人ともー!頑張ってー!!」

グランドからは敵味方関係なしに二人を応援する声が響いてくる。

ゴールテープも用意され、銀時は総をお姫様のしたままゴールまで走りきった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ