短編
□夏風邪
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自分が沖田を恋愛的な意味で好きなのかはまだよく分からない。
ただ、独占したくてしょうがないのだ。
何だかんだ言っていつも一緒にいる土方と沖田。
それが沖田が近藤の所に行ってしまうと悔しくてしょうがない。二人で楽しそうに笑っているのを見ると胸が痛い。
沖田も近藤も悪意があるわけではないことは分かっているが、どうにも気持ちを上手く抑制出来ない。
「失礼します」
静かな空気の中、襖が開き山崎が入ってきた。
「あれ、副長いらっしゃったんですか」
「あぁ、様子見に来ただけだ」
「あ…」
山崎は土方と沖田の手が握られているのを見て苦笑した。
山崎の手にはすりおろされたりんごがあった。
「風邪のときはやっぱりりんごですよね。俺も子供のころ風邪引くと必ずりんご食べてましたよ」
そう言いながら土方の隣に腰を下ろす山崎。
沖田の顔色を伺いながら、布団を剥ぎ、着物を少しはだけさせた。
「おい、何やってんだ」
「え?いや、体温を…」
山崎の手元をみれば体温計を握っていた。
「いい。俺がやるからお前は仕事に戻れ」
「はぁ…?」
怒りを含めた土方の言葉に首を傾げたものの、山崎は素直に部屋から出ていった。
沖田の方に向き直り、体温を計ろうと顔を近づけると
「土方さん」
沖田の口が動いた。
驚いて顔を見ると沖田の目はパッチリと開かれており、赤かった顔はいつもどおりの色を取り戻していた。
「目、覚めたのか?」
「えぇ、あんたらが五月蝿いもんで」
いつも通りの悪態をつく沖田。
だが、まだ手を握られていることに安堵を覚える。
「体温は計らなくても大丈夫でさァ。それよりりんご食べたい」
沖田の枕元に置いてあるすりりんごを見つめながら言う。
「食べさせてやるから手離せ」
すりりんごを食べさせたいのは山々なのだが、片手を塞がれてる状態では難しい。
「嫌でィ」
「えっ…」
驚いた。
てっきり沖田は寝ぼけてて手を繋いでいることに気づいていないと思っていたからだ。
だから手を繋いでいると分かった瞬間手を振り払われると覚悟していたのだが。
「手繋いでたら食べさせられねぇだろ」
「あんたなら出来るだろ」
「…………………………」
「…………………………」
一体何が起こったのだろう沖田に。
これがデレ期というやつなのだろうか。
結局、土方は折れ、すりりんごの入った皿を持ちあげ胡座をかいた膝の上に乗せる。
スプーンですりりんごを掬い沖田の口元へ運ぶ。
片手でバランスがとりにくいためぷるぷると腕が震えている。
沖田は少し体を起こしぱくりとすりりんごを食べる。
それを何度か繰り返したところで、沖田はもういらない、と言った。