短編
□夏風邪
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太陽がギラギラと照る真夏の日、バタバタと隊士たちが忙しそうに屯所内を走り回る。
真選組副長、土方十四郎はそれをチラリと横目で見る。
こんな暑いのに走ったらさらに暑いだろ。
見てるこっちが暑苦しくなるわ。
煙草の煙とともに思ったことを吐き出す、わけではなく心の中で呟いた。
普通なら煩く走り回る音がすれば、その隊士にむかって怒鳴り散らすのだが、今日はそうもいかない。
暑すぎて怒鳴る気分にもなれない、のも理由の1つだが、理由の大半は―。
「総悟、大丈夫か?」
沖田の部屋の襖を開けながら土方は言う。
部屋の持ち主は布団にくるまりながら息苦しそうに寝ていた。
そう、理由の大半というのは土方の部下でもある沖田総悟が風邪を引いたのだ。
だから隊士たちも沖田を心配して食べ物やらお菓子やらマンガやらを探して屯所内をバタバタと走り回っているのだ。
「総悟?」
呼び掛けてみるが反応はない。
随分と弱ってるみたいだ。
珍しいな。
と土方は思う。
もともと沖田は風邪には強い方だった。隊士の半分が風邪で寝込んでも沖田だけはピンピンとしていた。
顔までかぶっていた布団を少し剥いでみる。
顔は少し赤かった。
額に手を置いてみる。熱い。
近くにあった山崎が用意したのであろう手拭いを濡らし額においてみる。
すると顔が少し綻んだ、ように見える。
「何でこんな時期に風邪引いたんだか」
人一倍他人に弱みを見せない沖田が。
髪を絡めながら沖田の頭を撫でる土方。
子供扱いされるのが嫌いな沖田は頭を撫でられるのが嫌いだ。
それが近藤ならまだしも土方からとなればなおさら。
「普段からこんくらいおとなしけりゃ可愛いもんなんだけどな」
さらさらと指と指の間を通り抜ける髪を見つめながら土方はため息を吐いた。