リクエスト

□伝わらない
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アイツとは随分と長い付き合いである。いつからだったのだろうか。
アイツを“弟”のような存在として見られなくなったのは。
自分の気持ちに気付いてからいつかは言おう、そう思っていた。

勿論、きっかけがなかったわけじゃない。ただ、アイツはノーマルだから、気味悪がって今まで通りの悪ふざけもなくなってしまい、俺を見なくなってしまうのではないか、それなら、黙って側にいた方が幸せではないのか。
そう思うと、口には出せなかった。否、ただ単に俺には勇気がなかったのだろう。

「副長!沖田隊長が消えましたー!」

これももう日課。
別に俺が探しにいかなくとも、暇そうな隊士に探しに行かせればいい。それでも、俺が行くのは、単純に俺なら総悟を百発百中で見つけられるという事と、少しの下心からだ。
きっと今日は川に面した団子屋か、河原で寝こけているのだろう。
そこまで考え、俺は煙草をしまい、立ち上がった。


夕暮れの川辺。
果たして彼は団子屋にいた。人通りの少ない通りに面した団子屋で、その亜麻色は後ろ姿を見せていた。
近づくにつれ聞こえる話し声。

「はい、旦那、あーん」

「え、マジで!?いやー、沖田君に“あーん”されちゃうとか、銀さん愛されすぎて困っちゃうわー」

「いいから食えよ、この天パ」

「え、酷くね?」

その甘い内容と目に飛び込んだ光景に思わず足が止まった。総悟の隣りには俺の大嫌いな万事屋が。
悪い夢なら、覚めてほしかった。
しかし、これが現実なのだと告げるような冷たい風が頬を叩いた。
悪い夢でないなら、せめて思い違いであってほしい。
そう思い、一度固く目を閉じ、開く。
すると憎き万事屋と目があった。

「あっれー、多串君じゃーん。」

総悟の肩を抱きながら、そんな事を大声で放ち、余裕そうに嗤う。
総悟も振り返ったものの、今まで発していた所謂ピンク色のオーラなるものが霧消し、無表情に近い、つまらなそうな顔を向けた。

「総悟、帰るぞ。」

「へーい、じゃあ旦那。また。」

「えー、酷い。せめてお別れのチューは?」

「ありやせんから。馬鹿ですかィ?」

万事屋に向けた瞳の中には恋する色が浮かんでいて。
いたたまれなくなって、ぐいっと彼の腕を引き歩き出す。
総悟も抵抗なんてしなかった。
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