リクエスト
□一方通行
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総悟の部屋を出て廊下を1つ曲がり、壁に寄りかかってため息をついた。
――俺はどうかしている。
疲れてるのかもしれない。総悟が体調を崩したことで動揺してるのかもしれない。理由は分からないけど、おかしい。分かっていたことなのになんでこんなにイラつくんだ。
総悟が万事屋を好きなことなんて分かっていたのに。
「あー……」
なんとか落ち着こうと声を出す。
その時、俺から離れたところで、ギシリと廊下が鳴った。
反射的にその方向を見る。
「……んだよ、何か用か」
「用だから来たに決まってんだろ」
万事屋は、真っ直ぐに俺を見つめて歩いてきた。俺から微妙に離れたところで立ち止まる。
「お前さ、そういう過保護なのやめたら?」
その視線と同じように、言葉も限りなく率直だった。
「俺が悪かった。悪かったけどあそこでお前がキレる必要はねえだろ。いくらあいつのこと大切にしてるって言ったって、度が過ぎてる」
「……るせえよ」
か細い反論はあっさりと無視され、「……それだけ」と万事屋はきびすを返した。
分かってる。
その言葉だけはついに言えなかった。
廊下の奥から、総悟の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。さっき辛い思いしたばかりなのに、まだ喋ろうとするらしい。そうするくらい、万事屋と喋るのが好きらしい。
立っているのが億劫になって、壁を背にして座り込む。
好きなのに。空回りばかりだ。
総悟に苦しい思いをさせたくないという考えは確かにあった。だけどそれだけじゃない。万事屋への嫉妬の心は、否定するには重すぎる。
俺の方が長く一緒にいて、俺の方があいつのことを好きなのに。そんなガキのような嫉妬。……馬鹿みたいだ。いや、馬鹿なのだろう。
重いため息が出て、しかもそれと同時にまた笑い声が聞こえた。やるせない、というか、
――切ない。
俺に1番似合わない感情だな、と我ながらに思った。
(こんなに好きなのに)