リクエスト

□一方通行
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 部屋に帰ってくると、りんごどころの話じゃなかった。
 総悟が酷く咳き込んでいて、横で万事屋が何か話しかけながら背中をさすっていた。総悟が酷い風邪を引いたときはいつもそうで、だが俺が見ていないところでそうなったのは初めてだったから慌てた。
 少しして落ち着いてきた総悟は、それでもまだ荒い息を繰り返している。さすがに自分でもまずいと思ったらしく、自分からずるずると布団の中に戻っていった。
「……俺と話してたら急に咳き込んで」
 万事屋が、俺と目を合わせずに呟く。「……悪い、俺のせいだ」とも。その言葉を聞いて、総悟が無言で万事屋を見上げる。
「……帰れ」
 思わず出た言葉は、総悟に無理をさせないためだったのか、それとも自分の嫉妬を誤魔化すためだったのか。
「え」
「今すぐ帰れ」
「は!? 急に何言ってんだよ」
「帰れっつってんだ!」
「――土方さん!」
 万事屋の胸倉を掴んだ俺に、鋭い静止の声が入った。
 総悟はまた軽く咳き込み、「……俺が調子に乗ってしゃべりすぎたせいです」と言い始める。
「旦那のせいじゃありやせん」
 何が言いたいのかはすぐに分かった。
「だから、帰れなんて言わないでくだせェ」
「――っ」
 総悟本人がそう言うなら、従う他はなかった。小さくしたつもりの舌打ちが、部屋に変に響いた。
 居心地が悪い。
「……土方さんなんか今日おかしいです」
 言葉を発することが出来ないまま総悟を見る。赤く冷たく光る目に、微かな軽蔑の色が浮かんでいた。
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