紡ぐ湖


□守る覚悟
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やっと、想いが通じ合った。
やっと、手に入れた……やっと。
あんなにも暖かい気持ちで満たされていたのに、今は失うのが怖くて恐ろしくて仕方が無い。
もし、嫌われてしまったら。
もし、無理矢理にでも他の誰かに奪われてしまったら――。



どうしようもない焦燥が、危うく朱音を傷つけてしまうところだった。
強引に求めれば、怯えさせてしまうだけ。
そんな当たり前の事すら、見えなくなっていたなんて。



『おまえ、俺が怖いのか……?』



あの時、首筋に触れただけで朱音の体は反射的に俺を拒絶した。
何とか言葉で上手く誤魔化したが……その裏では、鈍器で殴られたような衝撃を隠すのに必死だった。
わかっているんだ。
悪いのは、俺。
俺が、朱音にあんな事を……色仕掛けなんか、させたから。



思い出し、繰り返すのは焦りつくような怒りと胸の痛み。
蘇るのは、あの許し難い光景。
作戦の為とはいえ、朱音が自ら進んで光秀の胸に触れるところなど……。
その小さな肩が、俺以外の男に抱き寄せられるところなど、見たくなかった。



(もし、無理矢理にでも奪われてしまったら、俺は……)



光秀に謀反をけしかける為に色じかけをしろと朱音に指示したのは俺なのに、それが上手く行けばいく程に心は嫉妬に狂い、荒み果て、こんな作戦しか思いつかなかった自分を責めて。
わざわざ天井裏に忍び込んで監視なんかするんじゃなかったと後悔もした。
朱音だって、怖かっただろうに……俺は、本当に最低だ。
更には、信長にまで気に入られ押し倒されたという朱音の話を聞いて言葉を失った。
あれほど、怒りで我を忘れそうになったのは生まれて初めてだ。



惚れた女を危険な目にあわせてまで、俺は何をやっているのか。
迷い、悩み……全てを捨てて朱音と逃げようかとも考えた。
しかし、そんな事をすれば朱音の努力も、想いも――何もかもが無駄になってしまう。



(俺は……いや、そんな事はさせない。俺が――)



俺が、しっかりしなければ。
他の男は勿論、俺自身からも……望まない未来からも。
朱音を脅かす、全ての存在から。



――俺が、守る。何があっても、絶対に――






     
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