紡ぐ湖


□其れ其れの想い
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暁に誓うに戻る





時は少し遡り……ここは、とある森の一角。
暗闇の中、佐助が一人で辺りを見渡しながらゆっくりと歩いている。



さっきまで、確かに何者かが外にいた。
もし敵であれば始末しなければならない……と、半蔵が指示を出したのは先刻のこと。
そういう訳で、才蔵と佐助は手分けをして隠れ家周辺の見回りをしていた。
半蔵は待機、小太郎は別行動だ。
佐助もそれなりに真面目に探し歩いてはみたものの、人がいるような痕跡は何処にも無い。
雲が空を覆いつくし月が姿を隠したせいで、森の中はより一層深い闇に包まれていた。



それにしても、この戦は心底面白くない。
いいところは全部五右衛門が攫っていくし、自分は見せ場もなくただこうして待ち続けるだけ。
それだけでもムカついてるのに、誰かさんが敵を連れてきたせいで、余計な見回りを増やされて腹立たしい事この上ない。
せめて朱音がいてくれたら……。
無言で五右衛門の後をついていった朱音を思い出し、佐助はつまらなそうに足元の石ころを蹴飛ばした。



「あんな奴、最低じゃねえか……」



五右衛門に言いたい事は山ほどあった。
敵を隠れ家まで連れてくるなんて。
どんな時も笑っていた朱音に、あんな暗い顔をさせるなんて。
危険な場所に、また彼女を連れていくなんて。
……俺だったらそんな事はしない、絶対に。



(朱音ちゃん……)



あの時。
部屋を出て行く二人を追いかけようとしたが、才蔵に止められてしまった為に何も言えなかった。
……どうして。
今回ばかりは誰が何と言おうと、自分が正しい筈だ。
どうして、誰もわかってくれない。
五右衛門が優秀で、俺が未熟だからか。
苛立ちに任せ蹴飛ばした石は、さっきよりも大きく地面を跳ねながら、真っ暗な闇の中へと転がって消えた。



……こんなところでこんな事をしていても駄目だ。
そうだ、今からでも朱音を引き止めるように半蔵さまを説得してみよう。
そう思い立ち、佐助は風のような速さで道なき道を引き返していった。



   ◇ ◇ ◇



急いで隠れ家に戻ってきた佐助は、庭にいる半蔵に声をかける。



「半蔵さま。南側、異常ありませんでした」



……返事が無い。
自分に気付いていないのか、半蔵は心ここに在らずといった様子でただ空を仰いだままだ。



「半蔵さま。……半蔵さまっ!」



わざわざ近くまで歩み寄って呼びかけたところでようやく気付いたらしく、半蔵はビクリと肩を震わせ佐助のいる方に顔を向けた。
……こんなにボンヤリしていて、大丈夫なのか。
驚き目を瞬かせる半蔵を、佐助は呆れ気味に見つめながらさっきの報告を繰り返す。



「異常ありませんでした。……つか半蔵さま、ボーっとし過ぎッスよ」
「あ、ああ、すまない。ご苦労だったな」
「こんなの全然。それより半蔵さま、やっぱ朱音ちゃんはここに残すべきじゃ……」
「姫の事も含め、全て五右衛門に任せた方がいい。疲れただろう、おまえはもう休んでいいぞ」



険しい顔つきで、ぴしゃりと窘められてしまった。
どいつもこいつも、五右衛門、五右衛門と。
確かにあいつは凄い、でも何かが無性に気に入らない。
しかし、いくら未熟であっても感情論だけで頭領に逆らってはいけない事ぐらいは分かっている。
ぶつぶつと文句を言いながら、佐助は隠れ家に戻るしかなかった。




     
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