紡ぐ湖


□光を待ちわびて
1ページ/5ページ

そして渦巻く炎へとに戻る




ここは、伊賀の里、服部家の一室。




朝の光が差し込む中、長老とその息子が向かい合わせに座っている。
二人の間には数枚の文が丁寧に並べられ、
半蔵の鋭い眼光が、俯く父親の頭頂部に注がれていた。



「父上。
 これはどういう事か、ご説明願いたい」



それは数日前の事。
敵襲をしのぎながらも伊賀に帰り着いた半蔵の元に、ハヤテ丸が一通の文を届けた。
今度はどの衆からの連絡かと封を開いてみると、
そこにはなぜか自分の見合話に関する内容が事細かに記されていた。



あれから、今まで。
相手衆が長老の鷹と半蔵の鷹を間違えてよこした文は、合わせて三通にもなる。
最初の一通だけなら何かの暗号かとも思えたが、それが三つも続けば流石におかしいと気付く。
あくまで先方の手違いで届いた文だ。
父上に正しく届けられた見合話がいくつになるのか、半蔵には見当もつかない。


「父上のお気持ちもわかります、しかし今は戦の最中。
 嫁を探している場合ではございません!」


バンッ!と畳を叩く音が響くと同時に、ビクッと長老の体が飛び跳ね、震えた。
恐る恐る顔を上げると、眉間に深い皺を寄せて怒りを漂わせる息子と目が合い、また下を向く。
これでは、どちらが上の立場かわからない。
里の長として、いや父親として、威厳の危機に瀕した長老が反撃とばかりに顔を上げた。



「お前は何もわかっておらん!
 こんな時だからこそ、嫁を見つけて子種を遺さねばならん!
 この戦い、お前とて生きて帰れる保障は無いのだ。
 服部の血を絶やしてはならんのだ!」



また、家か。
グッと、半蔵は下唇を噛み締めた。



「確かに、私には服部を継ぐ者として自覚が足りないかもしれません……ですが!
 特別な人がいては、里の為、役目の為に命を賭する覚悟が鈍ります……!」
「覚悟が鈍れば無駄に命を落とすと、結局は何も守れないと、
 そう私に教えたのは父上ではありませぬか!」



先程まで怒りに燃えていた瞳に、今は悲痛な色が滲む。
ワナワナと何かに耐える息子の姿を見て、長老は大きく溜め息をついた。
やはり、育て方を間違えた。
真面目すぎるのだ、この子は。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ