紡ぐ湖


□燻る願い
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灯火は揺らぎへ戻る





あれから、一晩考え続けた。

俺は、どうしたいのか。







昔。

泣いて、憎んで……奪い、逃げた。

偽善に酔い、奪ってはいけないものまで奪い……

罪悪感に耐え切れずに、また世の中を恨んで、

裏側から変えたくて……今に至る。



忍びの世界は過酷だった。

奪うのは、奪われない為。

役目に忠実なのは、出世する為。

忍びの世界で生き抜き、出世して、世の中を変える事で

罪と、苦しみから逃れたい……つまりは、自分の為。

何をしても犯した罪が消える訳じゃない、それでも。



俺は、この連綿と続く苦しみから逃れたい。

恐れ、奪ったりせずに、

喜んで与えられる人間になりたいんだ。

そう、朱音のような。




……今夜、庄屋の屋敷から金を盗む。
奪うまではいいとして、さて……金をどうするか。
今までの俺なら、盗んだ金を伊賀に持ち帰って戦力の足しにしていた。
……役目の為、出世の為に。
でも、今までと同じじゃいつまで経っても変われない。



朱音。

俺は、お前に近付きたい。



自分よりも他の誰かの幸せを望むお前なら、きっと……。
思い描く作戦が、偶然にも昔の俺の姿と重なり、小さく笑った。



あの頃とやる事は同じでも、意味も目的も違う。

お前の望みを道標に、少しでもお前に近づけるのなら……俺は。







ぺしっ



まだ酒が残っているのだろう。
気持ち良さそうに眠り続ける朱音の頭を、思いっきりひっぱたいた。



さて、これから忙しくなる。
昼間は修行、夜はお役目だ。



(……俺は、きっと、変われるはずだ)



徹夜明けの目に、朝日が痛いくらいに眩しかった。



    
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