紡ぐ湖


□Fly high!
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夏も終わりというのに、今日も朝からうだるような暑さ。
痛いくらいの日差しを睨むように空を見上げると、ゆったりと飛んでいく鳶が見えた。



(なんだか気持ち良さそうだな……)



「小太郎さま、鳶が飛んでますよ」



隣で黙々と雑草を抜く小太郎さまに、声をかけた。
今日は珍しくお役目がないので、里の畑仕事を手伝ってくれている。
たまの休みだから、家でゆっくりしてくれても良かったのに……。
そう思いつつも、こうして一緒にいられるのが嬉しかった。



昼にもなれば容赦ない暑さに襲われる。
その時間を避けて早朝から作業しているのだけど……すでに汗びっしょりだ。



「……そうですね」



汗をぬぐう私とは対照的に、
小太郎さまは涼しい顔でちらりと上を見上げただけで、
すぐに作業に戻ってしまった。



真剣な横顔も素敵だな……。



……いけない、早く終わらせなくちゃ。
私も視線を下に戻して、雑草に鍬を入れた。














少しして畑を見渡すと、雑草のほとんどが無くなっていた。
もう少しで終わり、かな。
再び空を見上げると、鳶はまだゆったりと円を描くように飛んでいる。



「まだ飛んでる……なんだか気持ち良さそうですね」
「……そうですね」



今度は、小太郎さまも手を止めてしっかりと空を見上げた。
穏やかな横顔。
穏やかな時間。
こうして、平和な時間を小太郎さまと過ごせるのが、本当に幸せだ。




「私も、空を飛んでみたいなぁ……」
「……そう、ですか」



空を飛ぶなんて、絶対出来ないってよくわかってる。
それでも、その時は何となくそう思った。
だから特に、お願いしたい! とか、絶対飛びたい! とか、
全然、そんなつもりじゃなかったんだけど……。



     
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