紡ぐ湖
□占有の印〜sideB
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「ただいま……うぉっ!」
「おかえりなさい!」
お役目から帰った俺は、いつもと違う朱音の姿に驚き、少しだけ後ずさった。
やたら布地が少ない着物で、特に肩の大きな切込みと、極端に短い裾。
そこから白く伸びた艶かしい足が、こうして目のやり場に困らせる。
「……どうしたんだ、それ」
「修行で動きやすいように作ってみたんです!どうですか?」
朱音はそう言うと、あろうことかその場で手を広げてクルクル回りはじめ、
無邪気に飛び跳ねたりもする。
(!! バカ、そんなに動いたら……!)
肩口の隙間から、短い裾の合わせ目から、視線を奪うように隠すべき肌が見え隠れする。
こんな姿を人前に晒せばどうなるか。
俺は少し考えただけで苛立ち、朱音の無防備さに眩暈がした。
こいつには警戒心というものが無い。
無さ過ぎる。
「お前、普段からそんな格好で出歩くつもりか?」
「いえ、これは修行用で……」
「お前はバカか?」
苛立ちをゲンコツに乗せ、朱音の頭上に振り下ろした。
「敵の前で着替える時間があるのか?」
「普段の格好で出来るようにならなきゃ意味ねぇだろ」
これは嘘だ。
他の男に朱音の肌を見せたくなかっただけだというのは、充分自覚している。
ただ、ここで本音を言うのは非常に照れ臭いし、
無防備な朱音を叱りたいのに逆に喜ばせちまう気がして無理矢理誤魔化した訳だが。
「うぅ……じゃあ普段からこれで出歩けば……」
半蔵以上に鈍感な朱音が、俺の男心を理解できるはずもない。
無神経な言葉で更に増幅された苛立ちを、再び脳天に振り下ろす羽目になる。