紡ぐ湖
□夏の日の午後〜sideB
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いつものように瞼を閉じ、手首の数珠にそっと口付ける。
お役目前には必ずやる、俺流のまじないだ。
いや、”願う”というより”誓う”って方が正しいな。
(何があっても、必ず生きて帰る!)
とはいえ、今日の任務はこの侍を自国まで送り届けるだけで、それほど危ない訳でもない。
こんな時は、俺はもう一言誓いに付け加える事にしている。
(……できるだけ、早く)
前を歩くこいつの足に合わせていたら日が暮れる。
だから、肩に担いで近道の山中を走り抜ける事にした。
「佐助殿っ?!何を…ぅわわわわっ!!」
「へへっ、ちょっと急ぐんで!しっかり掴まってて下さいよー……っと!」
大の男を担いだまま、俺は走った。
ひょいひょいと、軽快に木と木の間を駆け抜けていく。
そういえば、前に朱音を担いで走った時……笑ってたっけ。
その笑顔がとびきり可愛いくて、あれからどんどん好きになっていった。
あの笑顔に、早く会いたい。
「ひっ……!!ひぃぃぃっ!」
幸せな思い出を、背中から聞こえた情けない声がぶち壊した。
この男は、怯えてまともに抗議も出来ないらしい。
朱音が凄いのか、こいつがヘタレなのか。
……両方とも正解だな。
軽くため息を吐くと、更に速度を上げていった。