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□私の想いを変えてくれるだろうか。
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人間は嫌いだ。

神政時代、人間は神の下に膝を屈するのを嫌い、タルタロス結界陣を作った。

五人の術法師の力が神の力よりも優れたものであったことは認めよう。
そもそも、私は人間に負けたから人間が嫌いというわけではない。
しかし何故、人間が人間を陥れ、権力を持つものが弱い者を駒のように扱うのか。
権力者からして見ればこれはとても愉快なことだろう。
しかし弱い者から見れば自分等を支配する者が変わっただけだ。
それどころか、デリオ領地から離れた田舎の村には魔物が出現するようにもなった。
本当に良い思いをしているのは権力者だけだ。

私の仲間というものになったであろう、赤毛の男。
何故一時の感情で彼を受け入れてしまったのか、正直自分を責めたいところだ。
ただあの時、私が思い込んでいた人間の形を全て変えてくれるのではないか、とそう思っただけなのだ。
それでもやはり道行く先で出会う人間は汚く、彼のような人間の方が稀なのだ。
彼が良い人間であることは認めよう。
ただそれが人間全体の形を変えてくれるか、そう訊かれると否と答えるしかない。


だから私は、まだ人間が嫌いだ。


「どうしたソーマ、そんなぼんやりして」
「いえ、何でもありません。ただの考え事ですよ」
「ところで、さっきこんな木の実を見つけたんだが、これって食えると思うか?」
「・・・止めておいた方がいいんじゃないでしょうか」


お世辞にも美味しそうだとは言えない見た目の木の実を持ちながら男は私に話しかける。
この男は人間の中ではかなり強い方に分類される。
それで思い上がらないところは嫌いではない。


「そうか・・・。でも捨てるのも勿体ないな・・・」


その男は私の制止に戸惑いつつも、結局木の実を小さくかじった。
盛大に噎せた。


「シュバルマンさん、だから止めた方が良いと・・・」
「す、すっぱ・・・」


紫色の堅そうな果実は見た目に反して酸っぱかったらしい。
私は今でも、この男はただの馬鹿だったのではないかと思ってしまう。


「にしてもだな、どっちに行けば村に着くんだ?」
「僕に訊かれましても・・・」


いきなりガサ、という音が聴こえ、反射的にそちらを向くと、何かがいた。
肌色に少し灰色を混ぜたような体毛、人間よりも小さいそれは四足で立っていた。
開いた口から覗く赤い舌に、大きめの犬歯。それは狼、そうでないなら犬に思える。
しかしその眼光は鋭く、犬やただの狼と言うには異常であり、殺気が形となって見えるようだった。
餓えているのだろうと思ったが、それは次に素早く突進してきた。


「わわっ」


あまりにも急だったので避けることができず、木の幹に背中を打ち付けた。痛い。
また襲いかかってきそうだったので咄嗟に電撃を飛ばした。当たった。
犬のような鳴き声と共に倒れたが、まだぴくぴくと動いている。


「ソーマ、背中は大丈夫か」
「少し打っただけです。突進のスピードからしてモンスターですね」


シュバルマンは私に手を差し出した。その手を取って立ち上がる。
シュバルマンは私を立たせた後、モンスターに止めを刺した。
すると再びガサガサという音がしたため、そちらを向いた。
先程と同じモンスターが数匹、・・・よく見ればまだ奥に続いている。


「・・・シュバルマンさん。僕は逃げるのが得策だと思うのですが」
「え、あ、ああ、うん、そうだな」


既に大剣を構えていた時に逃げることを提案されたからか、若干戸惑っていた。
が、ようやく後ろに続く集団に気がついたのか、私の意見に同意した。


「仕方ない、逃げるか!」
「えっ」


ぐわん、という感覚。腹と腰の辺りに硬いものが当たっている感じがする。


「えええっ、シュバルマンさん!?」
「何だソーマ!」
「何故僕を持ち上げてるんですかあぁっ!」


腹は肩に当たり、腰を抱えている腕の装備はひんやり冷たく、硬い。
確かに人間のままでは身体能力はかなり劣っているはずだ。
だがしかしいきなりこれはないだろう!私にもプライドというものがあるんだ!
しかも何だ、この荷物のような抱え方は!あぁ、モンスターが追いかけて来るのが見える・・・。


「シュバルマンさん!敵がまったく遠ざかってません!」
「何ィッ!?」
「ここからでも僕の雷撃で少しずつ――」
「ぅおわっ!」
「うわっ!?」


ずるり、と。自分が地を走っていたら感じるだろう感覚を、間接的にだが感じた。
がくん、と強く揺さぶられるような感覚と、身体を強く打ち付けたような痛み。
低いところへ滑り落ちた。痛い。モンスターは撒けたようだか。


「・・・シュバルマンさん」
「・・・すまん」
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