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□秘密裏の平和
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「ごめんなさいラチェット。あまり気にならなかったから言わなかったのよ。あなた最近忙しそうなんだもの」

アーシーが言う。

「馬鹿を言うな。仲間の傷を治療するのが医者の仕事に決まってるだろう。少しばかり忙しいからって治療を後回しにしたりするもんか」

少しきつい調子でラチェットが言う。

「私は戦いの場にあまりでないし、いつもみんなと一緒に行動しているわけじゃない。私がいつも君たちに満足な治療をできる訳じゃないんだ。クリフジャンパーだってそうだった…」

アーシーの右足の装甲を取り外し、細かいパーツに分解しながらラチェットが続ける。

「彼はいつもどこかがおかしかっただろう。あの時、万全の状態でエネルゴン探索に向かわせていたら…彼が殺されることなどなかったのかと、たまに思うんだ」

とつとつとラチェットは話し終えると、ちらりとアーシーの顔を見やり、ふっと目を背けた。

「すまない、君の前でする話じゃなかったな」

「いいのよ。ラチェット。それに、クリフジャンパーが死んだのはあなたのせいじゃない。後悔したって彼は戻ってこないのよ」

アーシーはラチェットに言っているというより、自分に言い聞かせるように言った。

「私だって思ってる。あの時彼を一人で行かせなければ…あんな風にはならなかったと思ってる。後悔なんてしたりないわよ」

そこでアーシーは重苦しくため息をついた。

「だから、なるべくしないの。し始めたら、止まらないから…」

そこで、アーシーも黙り込んだ。

しばらくの沈黙。

今の空間には、ラチェットが使う工具の音だけがひびく。

おもむろに、ラチェットが口を開いた。

「いつも思ってるんだ…。このまま、戦場からみんなが戻らなかったらって事を…。でも絶対にそんなことはあるはずがないと思っている。それでも考えてしまうんだ。」

下を向いたままラチェットが言う。

「私のような者でも、みんなが無事に帰ってこれるように、少しでも役に立ちたいと思ってるんだ。だから、少しの不調でも、すぐに言って欲しい。送り出すときに後悔はしたくない」

「ラチェット…。そうね。みんなそうだわ。後悔はしたくない」

ラチェットにアーシーは少しほほえんでみせる。

だが、下を向いているラチェットにその笑みは見えない。

ラチェットがアーシーの右足から手を離した。

「終わった。調子は?」

ラチェットの問いかけに、アーシーはベンチから立ち上がり、あまり広くない基地の中でくるりとバク転して見せた。

「最高よ、ラチェット」

にこりと笑ってアーシーが言うと、ラチェットも安堵したように少し笑う。

「それはよかった」

そしてすぐに表情を元に戻すと、アーシーに指示する。

「っと、あとは私もまたモニター作業をするから、そこらへんの器具を片しといてくれ」

「了解よ、ラチェット」

アーシーはくるりと片づけが途中だった器具を手に取った。

バルクヘッドに壊されないように、手の届かない所に置こうと考えながら。
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