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□【ブレノク】揺らめく、すり抜ける、捕まえた
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蒼い月。藍色の夜空。
こんな日は、夢を見る。
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ごぼり、と口から泡が飛び出る。
肌にまとわりつく水の感触。
冴え冴えと切れる様に冷たい月の光。
とろとろと流れに揺られて、自我を失っていく。
泳ごうとする腕は弧を描いて水に弄ばれ、力なく揺らめく。
この力のない腕で何が出来るのだろう。
くるくると流れに巻かれて水底へ沈んでいく。
肺に水が流れ込み、息が出来ない。
目の前が暗くなっていく。
ぷつり、途切れた意識が夢の間をするりとすり抜ける感じがした。
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ふっと目覚めて隣を見る。
ブレークダウンが眠っている。
そっと手を伸ばしてブレークダウンに触れて、夢でないことを確かめる。
あの揺らめく水の流れにさらわれた感覚を取り戻す。
ブレークダウンが強いことは百も承知だが、それでも、不安になる。
どこかで、見失いそうで。
戦場から、帰ってこないのではないかと、不安になったり。
どこかで、行くなと引き止めたい気持ちがある。
それでも、その手は私の手をすり抜けて彼は行ってしまう。
それで、あんな夢を見るのだろう。
そう思い、またうとうとと眠ろうとしたそのとき。
「随分うなされてたな…」
ブレークダウンが私を見てぼそりと言った。
「起きてたのか?」
「…まぁ、な。」
目覚めたばかりのせいか、どこか眠そうな目でブレークダウンが私の問いに答える。
「苦しそうだったから…。気になって…」
「気にするな…ただの夢だ」
微笑んで見せても、ブレークダウンはどこか目元を暗くしながら、うつむいた。
「…か?」
「え?」
「悪い夢を、見たのか?」
ブレークダウンが心配そうに私の顔をのぞき込み、言った。
悪い夢。果たしてそうだろうか。
冷たい水。
切れるような月の光。
揺らめく流れ。
それが、じわじわと、とろとろと、私を溶かして、侵して、沈めていく。
苦痛も、恐怖も何もない。
それが、悪夢だろうか。
それが、私がうなされた理由だろうか。
ぼんやりと、考える。
ふるり、と身体が震えた。
寒い。
寒い。
熱がほしい。
あの冷たい水から、私は抜けきれていない…。
凍てつくような、月の光も、私を侵す、冷たい水も、私に、まとわりついて、離れない。
寒い。
冷たい。
その時。
ブレークダウンの腕がゆっくりと私を抱き寄せた。
そっと胸に埋められる。
その微かな熱に、じんわりと心の震えが鎮まっていく。
あぁ…。
あたたかい…。
「俺は、ここにいるから…。」
だから安心して寝ろよ。
朝になったら起こしてやるから。
「悪い夢なんか忘れちまえ…。」
「うん…。」
その腕が、身体が、どこにも行かないように捕まえて。
ゆっくり目を閉じる。
お願いだから。
今だけは、流されないように、沈まないように、私を捕まえていて…?