TFG1 擬人化
□I worry about you!
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……………カチリ
突然目の前が真っ白になり、スチール天井の蛍光灯が目に入った。
「コンボイ司令!気が付かれましたか!?」
「…ラチェット?」
白衣の女性軍医の顔が私をのぞき込んだ。
その顔は張りつめていた緊張が不意に緩んだような安堵の顔をしている。
「ラチェット、私は…?」
「デストロン軍に突っ込んだ後に力尽きて崖下に真っ逆様です。下手すれば オールスパークの源へお帰りでしたよ。本当に運がいいというか無茶だというか…!」
「そうか…エリータはどうした?」
私は戦場のパートナーであり、恋人でもある女性戦士、エリータワンの名前を呼んだ。
「さっきまでここにいましたが、出て行かれました。そんなに遠くにいるわけではないと思いますよ。」
「分かった。ラチェット、私はもう動けるか?」
「目だった損傷は全てリペアしました。もう動いても問題ないですが、あまり無理はしないでください。」
率直に返ってきた返事にわかったと頷き、私はリペアルームを出て歩き出した。
彼女がいつも行くところは知っている。町のはずれにある、小さな丘。町が一望できて、夕日が一番きれいに映る場所だ。
私はゆっくりとあるいてその丘を目指す。
エリータがその丘に行くときは、辛いことや、悲しいことがあったときだ。
『ここにくれば、私なんて広い世界のひとかけらだから、悩んでいてもしょうがないって思えるの』
泣きそうな顔で微笑む顔の奥にどれほどの悲しみが眠っているのだろう。
そして、私はエリータの悲しみをどれだけ救ってやれているのだろう。
傾き始めた日がビルや家を仄かに橙色に染め上げていく。
丘の麓につき、登っていくと、頂上に安座をしたエリータがいた。
「エリータ」
名前を呼ぶと、驚いたように私を見て、また前を向いて私に背を向けてしまった。
「…もう動けるの。」
背を向けたままエリータが聞く。
「無理をしなければ大丈夫とラチェットが言っていた。問題はない。」
「そう。」
背を向けて夕日を見つめたままエリータが小さく返事をした。
私はエリータの側へそっと近づき、横に立った。
赤とオレンジ色の見事なグラデーションを描く夕日は町の彼方へ沈みかけていた。
「美しいな。」
「ええ。」
ぽつりと呟いた言葉に、エリータが頷く。見やったその顔が、夕日に照らされて物憂げに曇っている。
「戦場に立ってる貴方みたいよ。」
そう小さくつぶやいて、エリータは隣に私などいないかのように独り言のように語り出した。
「貴方は夕日みたいだって思うの。いつも誰よりも熱く闘志を燃やしていて、誰よりも先に立っていて、輝いてる。だから、独りで無理することも多いのよね。」
私は黙ってその言葉を聞いていた。
「今回だって、私は心配だったのよ。あなたが無茶をするなんてことは今に始まった事じゃないけど、今度こそはって…。今回はもうだめじゃないかって思った…」
語尾が震えた。
エリータが立ち上がって私を見た。
小柄な彼女が私をわずかに見上げるような形で、私の目を見つめてくる。
「貴方が心配だっただけなの。襲撃を受けて死にかけても、生き延びた貴方だとわかっていても。貴方がいるから私は戦い続けていられる。貴方に死んでほしくないの…!」
「エリータ…」
気丈だと、彼女は強いと、思いこんでいた。私の思いこみだけで、彼女がどれだけ苦しんでいたことだろう。
エリータが私に寄りかかってきた。
「…もっと自分を大事にして。貴方だけの体じゃないのよ。」
「すまない。エリータ」
その背に腕を回して抱きしめた。
私の胸に顔を埋めて小さく啜り泣くエリータに大丈夫だと囁きながら、視界の端に、夜の紫が見えた。