レンサイ

□Private Heaven
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好き…。
好き……。
和希が好き…。
好きで、好きすぎて、苦しい。
愛してるから、キスを解きたくない。
夢中で交わす接吻け。
お互いの涙と唾液が絡む。
ずっと、ずっとキスしてたい。
求めあって、抱き合って、ずっと和希を感じてたい。
別れたくない。
愛してる。
離れたくない。
ずっとずっと、和希の隣りで笑っていたい。
和希が、大好きだよ…。
だけど。
だけどダメなんだ。
お願いだから、キスを解いて。
俺からは、和希のキスを解くことなんてできないから。
和希を拒絶なんて、したくないから…。
ねぇ和希。
このままキスを解くつもりがないなら、いっそこのまま。
このまま…、キスで窒息させて。
和希で俺を殺して。
俺…本当にこのまま…、死んでしまいたい。
別れた後和希が、誰かと幸せになるところなんか、見たくないから。
本当は、和希を誰にも渡したくないんだ。
和希は俺を閉じ込めたいって言ってたけど、俺もそう思ってる。
俺だって、和希を閉じ込めて、独り占めして、俺だけのものにしたいんだ。
愛してるから、クルシイ…の。
お願い、和希…。
このまま俺を殺して…。
ねぇ、和希───。
「遠藤くん、伊藤くん?」
非現実的な考えから俺を呼び起こしたのは、コンコンとドアをノックする、現実的な規則正しい音。
ドアの向こうの声の主は、この声は、七条さんだ…。
なんで…?
七条さんが和希の部屋に来たことなんか、一度もなかったのに。
和希を、俺を探してた?
「反応がないですねぇ。留守なのでしょうか。どうしますか、郁」
「いないのなら仕方ないだろう。戻るぞ、臣」
「はい」
七条さんと、西園寺さん、か。
留守じゃないです。
俺は、和希はここにいる。
でも、和希がキスを解いてくれないから。
俺も、和希のキスが欲しいから。
夢中で唇を貪って、ただ、和希の情熱を感じてる。
だけど…だけど。
ここでいつまでもキスしてるわけには、いかないんだよな…?
別れるって、決めたんじゃないか。
もう、終わりにするって。
どれだけ唇を合わせても、窒息死なんてするはずもない。
いつまでも、この接吻けが続くはずもない。
もう、夢から覚めなくちゃ。
自分が決めた現実に、戻らなくちゃ。
ごめんな、和希…。
アイシテル。
「…………っっ!」
きつく結ばれた接吻けを解くために、声を出すためにすることは……。
思いきり、和希の舌に噛み付くこと。
赤い鮮血が、俺の口の中に広がっていく…。
和希の、血。
おいしいとは、言えない味。
だけど、とても愛しい、和希の。
大切な人の心の内側だけじゃなく、舌を噛んで傷つけて、俺は、何をやってるんだろう。
でも、迷ってる暇なんてない。
和希の唇が僅かに離れた瞬間に、去り際のふたりに助けを求める。
「──た、すけて…!さ、い、おんじさんっ、七条さ…んっ…んんっ──」
血が溢れて痛いはずなのに、和希はまた唇を深くあわせて来て…、言葉を遮られた。
「……アイシテル…。本当に。啓太……」
オモイって、ウザイってひどいことを言ったのに、和希の舌を噛んだのに、それでも…俺が好き?
これでも、まだ好き?
ねぇ、好き…?
どうしたら、和希は俺を嫌いになってくれる?
傷つけた心も、噛んだ舌も、痛い…よな?
ごめんな…。
「郁、今、伊藤くんの声が?」
「ああ、聞こえた。助けてと。啓太、啓太っ!」
少しずつ遠くなっていた足音が戻って来て、ドアが力強く叩かれる。
絡ませた舌の水音だけの静寂の部屋に、その力強い音はドンドンと鳴り響いた。
西園寺さんと七条さん、気付いてくれたんだ…。
これで、和希とのキスが…やっと、解ける…。
これで、いいんだ。
いつまでも。
いつまでも、この接吻けが続くはずもない。
もう、夢から覚めなくちゃ。
夢から覚めたら、待っているのは…別れだけれど。
それで、いい。
西園寺さん、七条さん、早く。
ここから俺を連れ出して。
もう和希とキスしていたくない。
ドアに鍵はかかっていないから、そこを開けて、今すぐ和希と俺を引き離して。
だって和希、痛いだろ…?
本当に、ごめん───。
でも。
でもな、和希。
俺…、和希のことが……
「啓太!」
「伊藤くん!」
開かれたドア。
ドア越しだったふたりの焦ったような声が、すぐそばで聞こえた。
両手を床に張り付けられて、和希ので唇を塞がれている俺は、視界の隅でしか、ふたりの姿を確認できない。
涙を溢れさせて、唇からは、噛んだ舌の血が流れ出して。
こんな状態の俺たちを見て、どう思った?
西園寺さんと七条さんの目には、どう映った?
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