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□だだっこ
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桜。
うちで働く従業員の1人。
今日も桃タローくんと仲良く話してて、もやもやっとした。
僕が独り占めしたいくらい好きなのに、彼女はそのことを露程もしらない。
「白澤様、これも鬼灯様宛ですか?」
「うん、そう」
「じゃあ渡しておきますね」
桜は小さく鼻歌を歌いながら、僕が現世で買ってあげたポシェットに、薬袋を詰め込む。
今日は調合した薬を届けるのを頼まれているらしい。あろうことか、某鬼神本人に。
ねぇ、なんで桜が届けるんだよ。桃タローくんでも頼めばいいのに。
もやもやする気持ちを紛らわすために携帯を開く。
「それじゃあ、行ってきますね」
小さく微笑む桜に手を振る。僕はそれに携帯越しの苦笑いで答える。
とことこと入り口に歩いていく桜の後ろ姿を見ていると、なぜか無性に行かせたくなくなった。
携帯を閉じて、桜に近づく。
「待って、桜」
「?はい?」
───白澤様に呼ばれ足を止めて振り向くと、いつのまにか白澤様が後ろに立っていた。
じいっと白澤様と目が合う。
「私何か忘れ物でも……」
「ううん、何でもない」
「あ、そうですか」
なんだろ。変な白澤様。再び足を進めたところで、
「うわっ?!!」
着物の裾を強く後ろに引かれた。もちろん後ろにいるのは白澤様。
引かれた勢いでよろけ、立ち直すことも出来ず。
ままよと気づけば、白澤様の腕の中にすっぽりと収まっていた。
「あ、の…白澤様?」
「やっぱり地獄に行かせたくない」
「…仕事ですので」
「ずっとこのままでいい」
「…えっと、離してください」
「やーだ」
どこの駄々っ子ですか。
近くにいると薬品とか香水とかいろんな匂いがした。
「お届け遅れちゃったら、鬼灯様に迷惑かかりますよ」
「いい気味だ」
「こら」
まったく。
これでは幼児と何ら変わらない。この方、歳は桁違いなはずなのに。なんだか笑えちゃう。
「なるだけ早く帰って来ますから」
「ホント!?」
「はい。わかったら離してください」
そう言うと、長い腕は私の体から離れた。
「気をつけてね」
「はぁい」
「へんな輩に捕まらないように」
「はいはい」
「鬼灯になにかされたらすぐ言うんだよ」
「……はいはい」
「やっぱ僕が乗せて行こうか?」
「は………いや結構です。歩きます」
心配性な白澤様。
「早く帰ってきてね」
「はいはい」
それがなんだか、心地いい。
end