□またおいで。
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カランカラーンとドアの鐘が鳴る。





「こんにちは 白澤様」


「桜ちゃん、久しぶりだね」


「はい」


ふわりと笑う桜ちゃん。


相変わらず可愛い子。
相変わらずなのはもう1つ。

僕と桜ちゃんの距離。
桜ちゃんは玄関から動こうとはしない。


「あの…鬼灯様のおつかいで…」


「あぁ、薬でしょ。できてるよ。ちょっと待ってて」


「ありがとうございます」



椅子に座っててよ、というと桜ちゃんは小さく会釈をした。



生憎、いつも話相手となる桃太郎君は買い出しに行ってしばらく帰ってこない。
つまり僕と二人っきり。



「頼まれていたやつは全部入ってるから」


「ありがとうございます」


小さな布の袋を桜ちゃんに手渡す。


そしてそのまま、

桜ちゃんの腕を掴んで引き寄せて抱きしめた。

布の袋がぱさりと落ちる。



「なっ…?」


「捕まえた」



少し抗う桜ちゃん
でも抵抗よりも混乱のほうが大きいみたいで。

離れないように腰に手を回す。

ちゃんと食べてるの?ってくらい細い腰。
女の子らしいふわりとしたシャンプーのにおいが香る。


「白澤、様?」


「桜ちゃんは僕のこと嫌い?」


「…………」


「こうでもしないと、答えてくれないでしょ?」


「…………」




桜ちゃんは俯いたまま。
沈黙が重い。

外の音が静かな部屋にこだまする。
こんなに身体が近くなっても、桜ちゃんが考えていることが欠片もわからないなんて、いやになる。


「嫌い…じゃないです」


桜が発した小さな声。


「白澤様の事は好きです…優しいですし」

「ほんと?」

「は、はい…ただ、」


「ただ…?」


「白澤様とお喋りしていると…なぜかもやもやしたり、心が弾んだりするんですよ」

「…………」

「それに、白澤様は女たらしと聞きました。だから、苦手なはずなのに…気づいたら、白澤様のことばかり頭に浮かんでくるんです」




嫌われてるとばかり思っていた。
頬がニヤけそうになるのを必死にこらえる。



「…調子が狂っちゃうんですよ」


「ぶはっ」


「白澤様!?」


「あはは。ごめん、あまりにも可愛かったから」


「やっぱり私のことからかってたんですか…?」


「違う、違うよ」


「いい加減はなしてください!」


「あ、ごめんごめん」



するりと彼女は僕の腕から離れて行った。

焦るように床に落ちていた薬の袋を拾うと、そのまま「失礼します」と早足で店を出て行った。


待って、と声をかけたけど、桜ちゃんは振り向いてくれなかったし僕も追いかけなかった。

間も無く、桃タローくんが帰ってきて、僕に問いかけた。


「さっき、桜さんが顔真っ赤にして走って行ってましたけど、なんかあったんですか?」

「さあ?」



袋を拾うときに見た、耳まで赤くなった桜ちゃん。



「これ以上の収穫はないよ」

「はい?」

「ううん、なんでもない」






(なんだか今日は、気分が良い)


END

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