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□初心
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第二次補佐官、鬼神、鬼灯
おそれ多くも、私の彼氏。
長時間のデスクワークで肩と腰が悲鳴を上げていた。
「んーっ」
目の前の書類の束に嫌気が刺し、気晴らしにでもと仕事部屋を出て、思いっきり背伸びをする。
首を軽く回すとゴキッという音がした。…うん、帰ったらゆっくり肩を解そう。
背伸びをして少し崩れた帯を直していると聞きなれた声がした。
「桜」
「鬼灯様じゃないですか」
金棒に風呂敷をぶら下げて、きっと遠出だったのだろう。
「今日はどちらまで行かれたんですか?」
「地獄を数ヶ所と、現世に少しです」
「ご苦労様です」
ちなみに鬼灯様が今何処にいて、何の仕事をしているかなんて逐一把握していない。
いつも忙し過ぎて、その場だけに留まるってことがあまりないから。
「そういえば桜」
「はい」
「来週末は空いてますか?」
「来週末…?」
何だろう。
来週末の記憶が曖昧だったので、手帳を開いて確認する。
「……あ、空いてますよ」
「良かった」
「どうしてです?」
盂蘭盆からしばらく経って貰えた休み。
鬼灯様のお手伝いかなにかあるのだろうか。休日返上は、さすがにキツいなあ
「ちょうどその日は私も休みでして。盂蘭盆は2人で過ごせなかったので、良ければ一緒に現世にでも赴こうかと思いまして」
「デートですか!?」
「はい」
や、
やったぁ!!!
デートと名のつくものは、かれこれ1ヶ月ぶり。これは嬉しすぎる。
「予定に書いとかないと」
「そうしておいてください」
鬼灯様とデート。
ペンを取りだし、来週末の枠に書き込む。
「………うわぁ」
「どうしました」
「なんていうか…鬼灯様の名前書くだけでも、なんだか恥ずかしいものですね」
「はぁ…」
よく分からんといった感じの表情の鬼灯様。
名前を書くだけでも恥ずかしいのに、そのあとに続く文字はデートの三文字。
恥ずかしさやら嬉しさやら。
「もう少し綺麗な字で鬼灯様の名前を書きたいです。書き直しましょう」
「記せればいいじゃないですか」
「私の気がすみません」
(何度も書き直す度に幸せを噛み締める)
end
灰に書いては 消す男の名
火箸の手前も はずかしや