□同じ距離といえど
1ページ/1ページ



白澤様に地獄までおつかいを頼まれた。


内容は地獄にいる鬼灯様に薬を届けるというもの。


地獄に行って、鬼灯様に会えるというだけでもうルンルン気分。





鬼灯様は地獄の官吏。

忙しいためたまにこうして私が薬やら薬の材料やらをとどけにいく。


地獄までの道のりは決して短くはない。

なのにわざわざ白澤様に願い込んでまで地獄にいる鬼灯様の所に赴くのにはもちろん理由がある。


私が鬼灯様のことが好きだから。





ずっと会うのは難しい。
けれど時々こうして会いに行けるのが私の細やかな幸せ。


───何を話そう。

なんてことを考えていると、あっという間に地獄に到着した。



鬼灯様の仕事部屋は分かってるので、閻魔大王に適当に挨拶して入室を許可してもらう。



「…………ふー」


息を整えて、扉をノックする


コンコン


コンコン




あら?



返事がない。
もしかして、外出中とか?
それだったら凄く残念だ。


念のためドアノブを捻るとガチャリと音をたてて扉は開いた。



「失礼しまーす」


中を覗くと、誰も居なかった


ちぇっ………鬼灯様やっぱり外出中なんだ。残念。ちょっと、気持ちが沈んでしまう。



そのまま帰るわけにも行かず、薬を置くために入室させてもらった。


うーん鬼灯様のにおいがする。
ちょっとドキドキしてしまう。


これで鬼灯様が本当にいたら、言うことないのに。


会えなかった寂しさでため息が零れる。あーもう……




「はぁ…」

「桜さん?」

「うおぉぅ!!!?ほ、鬼灯様!?」

「どうも」


突然後ろから聞こえた鬼灯様の声に驚いて変な声を出してしまった。

口を手で塞ぎながら振りかえると鬼灯様が入り口に立っていらっしゃった。

心臓がバクバクと鼓動を鳴らす



「あ、あの、頼まれていたお薬を、お届けに…」

「あぁ、わざわざありがとうございます」


いつも通りの無表情。
だけどなんだか、少しだけ優しい感じがする。それになんだか癒されて。


薬は渡した
あとは帰るだけ。



「は、白澤様が!」


「…?はい?」


あとは帰るだけなのに、どうしても鬼灯様とまだ一緒に居たいと我が儘な私。



「今度、閻魔大王様と呑みに行きたいと仰っていました!!」


コレはホント。
白澤様がさらりと言っていたことをさも言伝てされたように言う。

その間だけでも、鬼灯様と居れるのなら。



鬼灯様は微かに眉を潜めたけれど、いつもの調子で「伝えておきましょう」とだけ発した。


「え、っと、じゃあ…失礼します」


せっかく来る間に必死に話す内容を考えていたのに、虚しくも全部頭から離れてしまった。

長居しては迷惑だろう


帰らなきゃ、と踵を返した所で鬼灯様に呼び止められた。


それだけで、胸が弾む。


「金丹を近いうちに持ってこれるよう、お願いできますか?」

「金丹…ですね。分かりました」


なんてことない、薬の注文。


けど。鬼灯様の次の言葉で昇天しそうになった。



「次も、桜さんが持ってきてくれますか」


ぽかんと口をあける私に、鬼灯様はお願いします、と付け加える。


それが嬉しくて嬉しくて「どうしてですか」なんて、聞けないくて。


「もちろんです」

と笑った。



だんだん貴方から離れていってしまっていると痛感する地獄からの帰り道はいつも千里に感じた。


けれど、貴方のたった一言で。


(どんな距離も1里のよう)


end




【惚れて通えば 千里も一里 逢わで帰れば また千里】


鬼徹古典文学企画様よりお題頂戴

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ