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「桜ちゃんは僕のこと好き?」
「…はい?」
案ずるより産むが易し、ってことで単刀直入に訊いてみた。
大好きな桃を片手にぽかんとしてる。
「いきなりなんですか」
「んー桜ちゃんってさ、鬼灯や桃タローくんと話すときは楽しそうなのに、僕と話すときだけ愛想笑いするよね」
「…………」
ほら、また。
桃を咀嚼する桜ちゃんをみる。
女の子をたくさん見てる分、女の子の表情に凄く敏感なのが今はとても憎らしい。
どんなに可愛い顔で笑っても、それが造りものだということをすぐに分かってしまう。
「で、どうなの?僕の事嫌い?」
「はい」
「即答!!?」
もしゃもしゃと桃を咀嚼する音
ほのかに香る桃の匂い
桜ちゃんはまるで他人事のようにそっぽを向いていた。
もう少し考えてくれても良いのに。
「鬼灯様から私の事、色々と聞いたみたいですね」
そっぽを向いたまま桜ちゃんは口を開いた。
「うん、聞いた」
過去の事がトラウマで少し男の人が苦手ということ。
「あれ、鬼灯様がついた嘘ですよ」
「…そうなの!?」
「私、べつに男の人苦手ではありません。鬼灯様や桃太郎くんと普通に話しているでしょう?」
あ…言われてみれば。
こないだも一寸法師君と一緒にバーベキューしたとき、初対面にもかかわらず結構会話していたことを思い出した。
「でも待ってよ、じゃあなんで僕だけ態度違うの?」
「確かに男の人は苦手ではありませんが…」
桜ちゃんの顔を覗きこむと目が合った。
逸らさず、今度は真っ直ぐに見てきた。
「白澤様のことは、苦手です」
「僕が苦手?」
「はい」
僕の事を好きだとか嫌いだとか言う女の子はたくさんいる。
だけど苦手と言われたのは初めてだ。あまりいい気もしない。
「私に可愛いとか好きだとか戯れ言を抜かします」
「戯れ言じゃないんだけどな」
「私とは比べ物にならないくらい可愛い女の子にも言っていました」
「女の子はみんな可愛いよ」
「その前は休日にデートしよう、って言ってきましたね」
「桜ちゃんには振られたけどね」
「だからその代わりに、違う女の子と朝まで遊んだ」
「………!」
気のせいか、桜ちゃんの声が震えていた。
参ったな。桜ちゃんに知られていたなんて。
「私は、白澤様の何を信じればいいのですか?」
好き、も、
可愛い、も。
みんな頬が緩んでしまうくらい嬉しかったのに。
デートを断った事のお詫びにでもと思い現世のお土産を持って桃源郷を訪れたのがいけなかった。
訪れなければ、何も知らずに今ごろ前よりもずっと貴方を好きでいられた。
「考えてしまうんですよ。私は遊ばれていたと頭では分かっていても……」
「桜ちゃん…」
「ずっと白澤様のことを、考えてしまう」
「!」
桜ちゃんの目一杯に溜まった溢れんばかりの涙。
「もう話さない、と。もう考えてしまわない、と」
ずっと気になっていたこの子は
「ずっといつも自分に言い聞かせていたのに…」
ずっと1人で悩みながら
「些細なことでも話しかけられると、喜んでいる自分がいるんです」
少しの間だけでもずっと
僕の事を考えてくれていた
「ごめん、ごめんね」
「!…離してください」
僕だけがずっと悩んでいるとばかり思っていた。
桜ちゃんを抱き締めて謝ることしかできないけれど。
「僕が好きなのは桜ちゃんだけだよ」
今さら言ったって君には届かないかもしれないね。
(矢印は向かい合っていたのに)
end