□ただ眺める
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ソファーでぐっすりとお昼寝をしている桜ちゃん


桃太郎くんと楽しそうにお喋りしていると思いきや、電源でも切れたかのようにプツリと眠ってしまった。


すーすーと小さく浅い寝息が静かな部屋に溶け込む。




ほんに可愛い あの口元を
にくや昼寝に 吸う藪蚊





桜ちゃんは僕に冷たい

何をしたわけじゃないけど、桃太郎くんと接し方が違うのは見て明らかに分かる。


嫌われているのか、と思い桜ちゃんに問いただしたら、


「べつに、嫌いではないです」


と短く返された。
ならばどうしてそこまで距離をとられてるんだろう。



おおかた、桜ちゃんの上司である某鬼神になにか言われているに違いない。

あいつは軽率で女ったらしだから近づかない方がいい、とか。




「べつに、とって食うわけじゃないのに…」



あいにく寝ている彼女を襲う気にはなんてなれない。

それで桜ちゃんが僕のことを好きになってるわけじゃないし


「ん…」



小さく桜ちゃんが唸る

よく寝てるなぁなんて思いながらソファーを見ると、あ。

小さな藪蚊が桜ちゃんの口元に止まっていた。


「………」


当の本人はいまだ眠ったまま。

もうすこしすると外から橙色の光が差し込むだろう

そろそろ起こすか、と一瞬考えたけど、止めた。



確か、桜ちゃんの寝起きは何処の鬼神ばりに悪かったはず。


………………うん、やめとこ。
でも、それじゃあ蚊に吸血されてしまうじゃないか




僕だって触れたことすらない口元を
あんな藪蚊が吸うなんて。











夕日も沈んだころ、顔をしかめて口元を隠す桜ちゃんが起きてきた。
蚊に吸われたの、なんてあからさまな質問はしなかった。




(ただ手で払いのけておけばよかった)





END

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